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「咲かなかったと思うぞ」 「え?」 「んー、すごく言いにくいんだけど、あれ種じゃなかったから」 「え……あ、あーそうなんだ。なるほど……なるほどね……私の思い込みだったってわけね……」  おまけの真実も発覚し、濁った思い出がクリアになる。まるで、封鎖していた家屋に風通しした時のようだ。  嫌いだったお父さん。遠くなっていたお父さん。今でさえ、誇らしく思えないお父さん――だけど、少しだけ見直したよ。 「て言うことだマイ。期待を裏切ったならごめんな」 「いや、いいよ。私ももう大人だし大丈夫。寧ろスッキリした。て言うかあの、昔はごめん」 「昔……? ああ、それこそ今さらだよ」  慈しむような笑みが、また少し記憶を優しくする。それから、心の棘も丸くした。 「あーっと、じゃあ私、明日も仕事だから帰るね」  草むらから縦列で脱出する。私が前で父が後ろだ。夕日も帰宅したらしく、空は暗さを纏い始めている。  背を向けたまま汚れを払っていると、遠い声が聞こえた。 「そうか、仕事か……子どもだったのに、成長するのは早いもんだなぁ。……帰り、気を付けて帰れよ」  つい振り向く。父は思っていたより近距離にいた。離れた声に錯覚したのだろう。お花が咲いたら、お母さんに会えるよね――そう確認を強要した時と、似た笑顔で立っていた。  永遠の別れを彷彿とさせられ、芽生えたばかりの感情が立ち上がる。 「ねぇお父さん、また来ていい? えっと、整備をしに……!」  予想外だったのか、父は慌てた様子で返事した。 「そ、そうだよな! さすがに放置しすぎだよな! じゃあ、来る時までに合鍵作っとくよ!」 「うん。じゃあ連絡取れるようにアドレス交換しよ。受け取れないと困るから」 「ああ」  けれど、携帯電話を持った時には、眩しい笑顔になっていた。
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