1人が本棚に入れています
本棚に追加
「咲かなかったと思うぞ」
「え?」
「んー、すごく言いにくいんだけど、あれ種じゃなかったから」
「え……あ、あーそうなんだ。なるほど……なるほどね……私の思い込みだったってわけね……」
おまけの真実も発覚し、濁った思い出がクリアになる。まるで、封鎖していた家屋に風通しした時のようだ。
嫌いだったお父さん。遠くなっていたお父さん。今でさえ、誇らしく思えないお父さん――だけど、少しだけ見直したよ。
「て言うことだマイ。期待を裏切ったならごめんな」
「いや、いいよ。私ももう大人だし大丈夫。寧ろスッキリした。て言うかあの、昔はごめん」
「昔……? ああ、それこそ今さらだよ」
慈しむような笑みが、また少し記憶を優しくする。それから、心の棘も丸くした。
「あーっと、じゃあ私、明日も仕事だから帰るね」
草むらから縦列で脱出する。私が前で父が後ろだ。夕日も帰宅したらしく、空は暗さを纏い始めている。
背を向けたまま汚れを払っていると、遠い声が聞こえた。
「そうか、仕事か……子どもだったのに、成長するのは早いもんだなぁ。……帰り、気を付けて帰れよ」
つい振り向く。父は思っていたより近距離にいた。離れた声に錯覚したのだろう。お花が咲いたら、お母さんに会えるよね――そう確認を強要した時と、似た笑顔で立っていた。
永遠の別れを彷彿とさせられ、芽生えたばかりの感情が立ち上がる。
「ねぇお父さん、また来ていい? えっと、整備をしに……!」
予想外だったのか、父は慌てた様子で返事した。
「そ、そうだよな! さすがに放置しすぎだよな! じゃあ、来る時までに合鍵作っとくよ!」
「うん。じゃあ連絡取れるようにアドレス交換しよ。受け取れないと困るから」
「ああ」
けれど、携帯電話を持った時には、眩しい笑顔になっていた。
最初のコメントを投稿しよう!