二話 同情か、それとも優しさか

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 今日は非常に天気が良い。日差しを浴びれば、体感気温はぐっと上がる。朝の支度で引いた汗が再び噴き出し、あまりの暑さに足が重くなるのを感じた。  家から学校までは距離がある為、毎日バスを使って通学している。この時間にバスに乗っている人達は、大体顔ぶれが同じだ。故に、私が障害持ちだという事を知っている乗客も多かった。  その大きな理由は、黒のスクールカバンにぶら下げた目立つ赤色のヘルプマークだろう。これは、援助や配慮を必要としている人達を表すピクトグラムの一つだ。主治医に勧められるままにカバンに付けていたが、これの御陰でバスや電車などの交通機関で席を譲って貰えたり、優先席に座っていても白い目で見られたりする事が少なくなった。  勿論、私の歩き方が普通と違う事も理由の一つではあるのだろうが、やはり殆どの人の目がカバンのヘルプマークに向けられるのが見ていて分かる。  足の痛みに耐えながら歩き、辿り着いたバス停の前で足を止める。並んでいるのは、スーツを着たサラリーマン二人に、白のブラウスに花柄スカートの若い女性が一人。いつも、このバス停からバスに乗る人達だ。  バスが来るまで、あと数分時間がある。設置されているベンチに腰掛ける事も考えたが、足の痛みは体重を強く掛けた時に起こりやすい。つまり、椅子などから立ち上がる瞬間や、階段の昇り降りをする際に最も痛みが強く出るのだ。  痛みには大分慣れた方なので、立っているだけなら然程問題は無い。これが十分、二十分と掛かるのなら考えものだが、数分なら立っていた方が楽だ。  列の最後尾に並び、カバンの中からタブレットとペンを取り出す。落下防止でタブレットに取り付けたハンドベルトに手を差し込み、タブレットを起動しニュースアプリを開いた。  アプリの上方に表示されているのは今日の天気予報。現在の外気温は二十九度、湿度七十パーセント。まだ七時半だぞ勘弁してくれ。  本日の最高気温は三十三度、の文字を恨めしく思いながらも、ずらりと並ぶニュースの見出しに目を向ける。  政治家の不祥事、芸能人の炎上、スキャンダル、理不尽な交通事故。毎日毎日、代り映えの無いニュースばかりだ。 「――遠海?」  ディスプレイを見て溜息をついた瞬間、背後から急に自身を呼ぶ声が聞こえ、肩を叩かれた。驚きのあまりペンが手から滑り落ちる。  コロコロと転がったペンは、列の先頭に並ぶサラリーマンの足元で止まった。それに気付いたサラリーマンがペンを拾い、軽く土埃を払った後笑顔を浮かべ此方に差し出してくれた。 「――……」  声を出してお礼を言う事が出来ない為、ペンを受け取り深々と頭を下げる。バスの乗客が私の障害をどこまで認知しているかは知らないが、そのサラリーマンは何も言わない私を訝しむ事無く笑顔を浮かべたまま前に向きなおった。  私の名を呼び、肩を叩いた人物。たった一日しか経過していないが、声を聞いただけで誰かが分かる。白川雪斗だ。  筆談用のペイントツールを開きながら、ゆっくりと振り返った。
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