第4話 恋人

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しばらく見つめあったあと、また笑い出す。 恥ずかしくて、でも、どこか楽しくて、彼と一緒にいるのが幸せで。 時間を見ると、7時を指していた。 「直也、時間大丈夫?」 「う、うん、一応連絡しておこうかな。」 「その、帰らなくていいのか?」 「…あっ、ごめん、、そうだね、そろそろ帰った方が、、」 まだ帰りたくないと思ってしまった僕は、もっと一緒に居れると勝手に思ってしまった。 もしかしたら彼の両親が帰ってくるかもしれない。 僕は鞄を持って立ち上がろうとした。 でも、彼の手が僕の腕を掴んだ。 「その、直也が嫌じゃなかったら、」 彼が珍しく言葉を詰まらせる。 いや、今日は彼の方が言葉が上手く出てきていないみたいだった。 腕を掴んでいた手にまた力が入るのがわかる。 「泊まっていかないか?」 彼の顔は少し赤くなっていて、恥ずかしそうにしていた。 いつもはっきりしている彼が、今日はいろんな表情をする。 僕は、僕の知らない彼を今日一日で沢山知れて嬉しかった。 僕は、そんな風に考えていた。 「で、でも、、ご両親が、、」 「両親、明後日まで帰ってこないから。」 「…そ、そうなんだ。」 僕は少し考えた。 「…ごめん、、今日は泊まれない、、かな。」 「そ、そうだよな、急に言って悪い。」 僕を掴んでいた彼の手が離れる。 僕は、その落ちていく彼の手をとった。 彼は少し驚いたように僕を見た。 「その、響輝、くんが、良かったら、明日、、その、、お泊まり、、」 彼の顔が明るくなる。 僕はやっぱり、笑顔の彼が大好きだ。 「うん!明日、明日な!絶対だからな!」 彼が僕の手をぶんぶんと振る。 僕も何度も頷く。 それから僕は帰ることにした。 外まで見送りをしてくれる彼。 外はすでに暗くなっていた。 「その、今日はありがとう。」 「…うん、僕も、、ありがとう。」 「…」 「…」 また沈黙が流れた。 でもその沈黙は、すぐに笑い声に変わる。 「直也、また明日。」 「…うん、また明日。」 僕は何度も振り返りながら彼に手を振った。 彼は僕がかなり離れても、ずっと手を振ってくれた。 それが嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。 彼が本当に大好きだということを実感して、彼も僕を好きだと実感することが出来た。 しばらく歩いて、彼の姿も完全に見えなくなった。 初めて通る道、道に迷わないか心配だったけど、なんとか地図アプリを使って道がわかるところまで出ることが出来た。 さらにしばらく歩いていると、見覚えのある姿があった。 僕はその姿に近づく。 「み、みさきちゃん?」 「あ…なおくん。」 「どうしたの?こんなところで、、」 「なおくんを待ってたんだよ?」 「…え?なんで、、」 みさきちゃんは、帰ろう、と歩き出した。 僕もみさきちゃんの横に並ぶ。 「なおくん、優しいから。悪い女の子に引っかかってるんじゃないかってね。」 「そ、そんなことないよ。」 みさきちゃんは、僕のことを心配してくれた。 でも、みさきちゃんは僕に過保護だ。 今日も、こうやって、女の子の方が危ない夜に、弟の僕を待っていてくれた。 僕は、みさきちゃんの方が心配だった。 でも、みさきちゃんは自分のことより僕の方がよっぽど大事らしい。 「ねぇ、さっき一緒にいた男の子、なおくんとどんな関係なの?」 「…へ?」 みさきちゃんの言葉に変な声が出た。 そんな僕を見て、みさきちゃんの足が止まる。 みさきちゃんの深いため息が、後ろから聞こえた。 「はぁ…やっぱり、カレシなんでしょ。」 僕はジト目でそう見てくる姉に、隠し事はできなかった。
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