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第3話 姉
それで今に至る。
約一年間くらい、高校二年生の春になった今でも、彼は必ず僕と一緒に帰ってくれる。
僕の塾があるときは彼は必ず部活を休んで、塾がない日は必ず部活に行くようにしてくれた。
それから昼食もお昼休みも一緒に過ごすようになった。
お昼休みは、僕は読書、彼はスマホ、たまにお喋りくらいだった。
一緒にいて、お互いに違うことをする。
でも、一緒にいてくれるだけで安心した。
そんなのが約一年間。
僕は友達というものを持ったことがない。
ましてや親友なんて。
だから適切な距離がわからない。
僕が疑問に思ってることは、全部一般的に常識なのかもしれない。
当たり前かもしれない。
だから聞けない。
今この帰り道も、僕にとっては距離が近くて、すぐに肩が触れてしまいそうで。
でも、離れてしまえば、僕は壁にぶつかりながら歩くことになるし、彼に離れて欲しいと言ってしまえば、彼は車道に出てしまう。
この距離になれない。
約1年間、同じ通学路を通っているのに慣れない。
まだ少し肌寒い4月。
今日は金曜日、塾はなく、部活帰りの僕と彼。
本当に同じクラスになれて良かった。
そう思いながら歩いていた。
もし違うクラスになっていたら、彼は一緒にこの道を歩いてくれただろうか。
そんな不安を抱えていた。
僕は俯いたまま歩いていた。
すると、
「あれ?なおくん?」
「え?」
目の前に、僕の名前、というか渾名を呼ぶ女性の姿があった。
「みっ、みさきちゃん?なんで?」
勢いよくかけて来た女性、みさきちゃんは、僕の両手を恋人繋ぎにしてブンブン振って来た。
「え〜久しぶり!!元気にしてた??」
「みさきちゃんこそ、、」
「…直也、誰?」
「あっ、えっと、、」
「なおくんの彼女の、みさきで〜す!」
彼の表情が固まる。
僕は照れながら顔をぶんぶんと振る。
「ちっ、ちが!みさきちゃん、なんでそんな、こと言うの?」
「だってだって〜、、」
みさきちゃんが口をふくらませて、こっちを睨んでくる。
でもその顔はかわいい。
「じゃっ、私は行くところあるから、また後でね〜!」
みさきちゃんが手を振る。
僕も手を振り返す。
そんな僕を不機嫌そうに彼は見る。
「…仲良いんだね。」
「え?う、うん、」
それからはまた無言でなんだか気まずい。
いつも無言は当たり前なのになんでだろう。
僕はなんとなく話しかけた。
「みさきちゃん、かわいいよね、やっぱ、僕には合わないよね。」
「…え?やっぱり、彼女なの?」
「え!?あっ、そうじゃなくて、その、」
僕はうまく説明が出来なくてあたふたしてしまう。
それを見る彼の顔に、いつもの笑顔はなかった。
僕はまずいことを言ってしまったと慌ててしまった。
僕の顔を見ていた彼は前を向いて僕の前を少し早い足取りで歩いた。
急に早くなった彼に追いつこうと、僕は少し小走りで彼の後ろを目指した。
「…ねぇ、今日さ、時間ある?」
「…え?今日は特に何も無いけど、」
「じゃあさ、俺の家、来る?」
「…え?響輝くんの、家?」
「そう。俺の家。」
今まで休みの日も、夏休みも冬休みも、何日かは一緒に過ごしたことあったけど、ファミレスだったり、部活だったから、どちらかの家に行ったことが一度もなかった。
僕は友達の家に行ったことが一度もない。
もちろん田舎に住んでいたときは、友達もいたんだろうけど、記憶もないし、ほぼほぼ畑や野っ原を走り回ってただけだった。
僕は一瞬固まった。
「やっぱ駄目?」
彼の言葉にぶんぶんと首を横に振る。
「い、いいの?お母さんとかに、迷惑、かからない?」
「うん、そこは大事、今日親いないから。」
そう言いながら、彼は僕の前を歩いた。
彼の表情が見えなかった。
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