第3話 姉

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彼の家は、僕の家の真反対だった。 僕の地区なんて微塵も通らない。 彼が一人だった僕に気を使ってくれていたことに今更気がついた。 「ひ、響輝、くん。その、えっと、」 自分でも上手く言葉をまとめられなかった。 僕は俯いたまま彼の後ろを歩く。 彼の足が止まり、僕も足を止める。 俯いた視線の先に彼の足が見える。 彼がこっちを振り返るのが見えた。 僕は何を言われるのか怯えていた。 僕はやっぱり、彼に迷惑をかけてたんだ。 僕がギュッと目を瞑っていると、彼が僕の頬に手を当てた。 「…え?」 僕は驚いて彼を見上げる。 彼の表情は真顔だった。 今まで見てきた笑顔の表情は全くなかった。 僕は怖くなって、何も言えなかった。 ただ彼の目を見ることしか出来なかった。 最初、家族以外の誰の目も見ることも出来なかった僕は、いつの間にか彼の目を見ることができるようになっていた。 一緒に食事をすることも、一緒に休み時間を過ごすことも、何もかも、僕にとっては初めてだった。 僕は彼に嫌われたくない。 そう思っていると、彼が苦笑いを浮かべる。 「やっぱ、気持ち悪いか?」 「…え?」 僕に触れていた彼の手が離れる。 「俺は、直也と少しでも一緒にいたかったんだけど。やっぱ、ストーカーみたいで気持ち悪いよな。ごめん。」 そういう彼は少し寂しそうだった。 僕はそんな、彼の表情を見るのが嫌だった。 「そ、そんなこと、ないよ。ただ、僕に気を使ってくれてたんじゃって、思って、」 「…気を使う?なんで?」 彼が不思議そうに僕を見る。 「だ、だっていつもひとりの僕が可哀想だから、だから、一緒にいてくれてるだけ、なんじゃって。」 彼は苦笑いではなく、本当の笑みを浮かべた。 「そんなわけないだろ?直也は、俺の親友だからな。」 「…親友、そう、だよね。」 僕は彼の笑顔が大好きだった。 僕も彼に笑顔で返す。 彼のおかげで僕は自然に笑うことが出来る。 でも、このときは僕の笑顔を見て、彼は笑顔をやめてしまった。 僕は何かしてしまったと思い、咄嗟に謝った。 「ご、こめん、僕、何かしたかな?」 「…ううん、いや、なんでもない。」 彼はスタスタと歩き始める。 僕もそれを追いかける。 今度は僕が彼の隣に立った。 初めて自分から隣に行ったかもしれない。 彼は少し驚いたように僕を見る。 「し、親友なんだから、当然、だよ、ね?」 僕は少し照れ笑いで彼の方を見た。 彼は最初、驚いていたけど、また微笑んで頷いてくれた。 彼の家は、ちょっと遠いみたいだった。
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