第3話 姉

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彼の家に着いた。 少し豪華な一軒家。 彼が家の鍵を開ける。 「お、お邪魔します。」 僕はド緊張で彼の家に入る。 彼は少し笑った。 「ははっ、そんな緊張すんなよ、親いないからさ。」 僕は靴を整える。 二階にある彼の部屋へ向かう。 彼の部屋は、シンプルだった。 テーブルとベットと本棚と勉強机。 余計なものがないって感じだった。 「ちょっと飲み物取ってくるよ、麦茶とりんごジュース、どっちがいい?」 「り、りんごジュース。」 「OK、持ってくるからちょっとまってて。」 「う、うん。」 彼は僕がりんごジュースが好きなことを知っていた。 まさか元々家に呼ぶ気だったんだろうか? それとも家族でりんごジュースを好きな人がいるのか。 僕にはわからない答えだった。 考えすぎだと思い、鞄を置き、丸いテーブルの前に座る。 彼が来るのを待つ。 彼の部屋を見渡す。 誰かの家に来たのが初めてで、そわそわしていた。 彼が飲み物を持って来た。 「おまたせ、ほい、りんごジュース。」 「…あ、ありがとう。」 僕は彼からりんごジュースが入ったコップを受け取る。 彼も少し離れて座る。 「両親には連絡しなくていいの?」 「う、うん、さっきみさきちゃんにメールしたから。」 「え?なんで?」 「え、えっと、みさきちゃんは、僕の、姉さんなんだ。」 「……え?」 「あんまり、歳上に見られたくないから、言っちゃダメ、って言われてるんだけど…。」 「じゃあ、さっきの人は、お姉さん?」 「う、うん。」 「…そ、そっかー。そうだったんだ。」 そう言うと、彼は麦茶を一口飲んだ。 僕もりんごジュースを飲んだ。 「…おいし。」 僕はボソッとつぶやき、コップを机に置く。 ふと彼を見ると、彼はこっちをじーっと見てくる。 「…な、、なに?」 「いや、なんでも、」 そう言うと彼はまた麦茶を飲んだ。 少しの沈黙。 僕は気になったことを思いきって伝えた。 「な、なんで家に呼んでくれたの?」 彼は少し困ったような顔をして、コップを机の上に置く。 「ちょっと、言っておきたいことがあったんだけど…。」 彼が改まって正座をしたから、僕も自然と正座になった。 また沈黙が流れた。 彼がひとつ深呼吸をして、真っ直ぐに僕を見てきた。 僕も彼の目を見る。 彼の真剣な目を。 「俺さ、直也に彼女がいたんだって、焦ったんだよね。」 「…え?そ、そうなの?」 「すっごく焦った。もう俺と一緒に帰ってくれなくなるんじゃって、」 「な、なんで、、」 「やっぱ、友達より恋人を優先しがちだろ?俺はそうなるの嫌だったから、だから、家に呼んでそれを伝えようと思ってたんだけど、」 彼は恥ずかしそうに頭を搔く。 「どうも俺の勘違いだったみたいだな、それだけなんだ、、はは、」 「そ、そっか。」 もっと大きなことじゃなくてよかったと思った。 「あ、今ちょっと笑っただろ?」 「え!?わ、笑ってなんか、ないよ。」 「…そうか?」 彼が僕の顔を覗き込んでくる。 僕は恥ずかしくなって、後ずさった。 彼は笑いながら、座り直す。 「直也に彼女がいなくてなんか安心した。」 「僕に、恋人なんて、できないよ。」 そういう僕に彼は大きくため息をついた。 「みんな直也の良さに気づいてないだけだ。こんな優しいやつ、そうそういないぞ?」 「そう、かな?あ、ありがとう。」 僕は照れ臭くなったけど、素直に感謝の気持ちを伝えた。 「直也は、俺に恋人が出来たらどうする?」 「ど、どうする、って?」 「おめでとうって言ってくれる?」 僕は頷いた。 「も、もちろん、、」 「…そっか。」 僕の頷きに、静かにそう答えた彼は、少し不機嫌だった。 「俺さ、好きな人がいるんだよね。」 そっぽを向いてそういった彼。 僕はそこまで驚かなかった。 「そっか、、実ると、いいね。」 笑顔でそういう僕は、彼が少し嫌そうな表情を顔に出したことを読み取ることが出来なかった。 読み取れなかったから、僕は多分余計なことを言ってしまった。 「今度からはその子と一緒に帰るの?」 「は?」 彼が少しキレ気味でそう言った。 短い言葉が僕にとって、とても怖かった。 僕はまた余計なことを言ってしまったと、謝った。 「ご、ごめん、余計なこと、、」 「それって、俺とは帰りたくないってこと?」 「な、なんで、違うよ、、ただ僕は、」 「俺は、直也が、他の人と帰るのが嫌だ。」 「え?」 「俺は…直也が他の人と一緒にご飯食べるのも、休み時間過ごしてるのを見るのも辛い!」 「響輝…くん、」 「…ごめん、」 こんなに取り乱した彼を、初めて見た。 今、彼をこんな表情にさせているのは自分なんだと、僕は僕が嫌になった。 「ごめん。」 「…なんで、直也が謝るんだよ。俺の一方的な感情なのに。」 一方的、彼も僕と同じ感情を抱いていた。 その事実が僕をさらに混乱させた。 「一方的、、じゃ、ないよ、」 僕はぼそっと言う。 その言葉を、彼はちゃんと拾ってくれた。 でも、彼はまだ僕の目を見てはくれない。 「…一方的だよ。直也は、俺の本心を聞いたら、絶対そばにいてくれなくなる。こんなこと言うつもり無かったのに。」 彼のこんな寂しそうな姿を見たくはなかった。 僕は立ち上がり、彼の後ろに行った。 僕は何をすればいいか分からなかった。 でも、きっとこうした方がいいという考えはあった。 僕は、彼を後ろから抱きしめた。
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