第4話 恋人

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第4話 恋人

唇に触れた優しいキス。 僕のファーストキス。 彼がゆっくりと離れる。 僕を見下ろすその目は、さっきまで泣いていたからか、目は赤く少し腫れていた。 でも、彼の目は、いつも僕を見てくれる優しい目だった。 そんなことを考えていると、段々と起こったことの実感が湧き、自分の顔が耳まで真っ赤になってることを自覚する。 慌てて自分の両手で顔を隠す。 どどどどどどどどうしてこうなった!!?? 彼の優しい目が、少し赤くなったさっきの顔が、頭から離れない。 心臓の音がうるさい。 なんで僕は、僕は、こんなに、 嬉しいんだろう。 「…ごめん。、やっぱり、嫌だったよね。」 彼が悲しそうな声でそう言いながら体を動す音が聞こえた。 「…違う、!」 僕は彼が起き上がろうと、浮かせた右手を顔を覆っていた手で掴む。 「うわっ!!」 彼はバランスを崩し、さっきよりも彼との距離が近くなった。 心臓の音が彼に聞こえているんじゃないかとまたさらにドキドキした。 誤魔化すように、僕は大声で謝った。 「ご!!ごめん!!!」 「…くっ、ふふふふふ、、」 彼が急に笑いだして、またわからなくなった。 彼は、僕から離れて、座る。 「ごめん、、ちょっと、おかしくて。ははは、、」 僕も体を起こし、彼の横に座る。 僕もなんだかおかしくなって、笑った。 笑い終わったとき、彼の方を見た。 彼も僕の方を見ていた。 その顔はどこか申し訳なさそうだった。 僕は彼が考えていることが何となくわかって、何となく笑顔で返した。 彼はそれを少し驚いた顔で見た後、照れたように俯いた。 「いきなりあんなことして、なんで直也は平気なの?嫌じゃない?もう俺と、、」 「ふふふ、、」 僕はそう話す彼が少し面白く感じた。 「なんか、響輝くん、僕みたいになってる。」 「…そう、だな、ははは。」 また沈黙が流れる。 彼が軽く深呼吸をして僕に向き合う。 「俺は、直也とずっと一緒にいたい。直也が他の人と話してるのも、遊んでるのも、見たくないし、して欲しくない。俺だけを見てほしい。これが俺の本音。俺、超ダサいよな。」 「ダサくなんて、ないよ、僕は、そんなふうに思ってくれてるって知って、嬉しかった、、」 「…ほんとに?気持ち悪くない?1年間、そんなふうに思ってて、毎日家まで、塾までついて行く様な俺でも?」 「僕にとって、響輝くんは、憧れだから。そんなふうに思ってくれて、とっても嬉しい。」 「…直也は、ほんとに、優しいね。」 そう言うと、彼は僕の頬に手を当てた。 僕は今日の帰り道を思い出す。 あのときも、僕のことをそんなふうに思ってくれてたんだ。 その気持ちに答えるように、彼の手に僕の手を重ねた。 彼が愛おしく見える。 僕の親友で唯一の友達。 でも、この関係も、親友という言葉で表していいものか。 もっと上の、そう、例えば、、 「僕達、恋人みたい、だね、、」 彼のことを好きだったなんて自覚はない。 僕にとって、親友と恋人の違いなんてわからなかった。 僕には無縁の言葉だったから。 でも、僕にとってそんなのどっちでも良くて、彼が特別な存在ということに変わりはなかった。 僕の言葉に、少し悲しそうになる彼。 「そう、だな。順序間違えちゃったけど。」 そう言うと、頬に当てていた手を外し、彼の両手が僕の両手をとる。 「直也、俺の恋人になってください。」 「…え?い、いいの、、ほんとに恋人になっても?」 「俺は…直也がいいんだ。」 彼の手に力が篭もるのがわかった。 僕もそれに答えるように握り返す。 「う、ん。僕も、響輝くんと、恋人になりたい、、です。」 僕は、彼の両手と恋人繋ぎをした。 彼は少し驚いた顔をした。 こんなに積極的になる僕を、僕自身も知らない。 それほど彼を手離したくない。 僕以外を見て欲しくない。 彼に感化されたわけじゃないけど、彼の思いと今、僕の思いに大差はない。 そう思えた。 僕は彼にキスをした。 優しいキスを。
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