第1話 親友

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第1話 親友

「帰ろうぜ、直也。」 「…うん。」 直也は、僕の名前だ。 川添 直也(かわそ なおや)これが僕の名前。 「望田、今日部活は?」 「悪い、俺今日用事あるわ。」 申し訳程度に両手を合わせて、ゴメンのポーズをとる望田と呼ばれた彼。 望田 響輝(もちだ ひびき)、僕の親友で、唯一の友達だ。 他にも友達がいるのに、去年からずっと一緒に帰ってくれる。 それが僕にとって不思議でならなかった。 入学式から、約一年間ずっと。 不釣り合いな僕と。 そんなことを毎日考える。 答えは出ないってわかってるのに。 「直也、今日はファミレスで勉強教えてくれよ。今日の数学、やっぱわかんなくてさ。」 「…いいよ。」 「やった!」 嬉しそうに彼が微笑む。 彼が、僕の言葉で喜ぶ姿を見るのは悪くない。 むしろ僕の方が喜んでる気がする。 僕達は、近くのファミレスに入った。 彼が先に座り、僕は彼の向かいに座る。 「直也は、何頼む?」 「…響輝くんは?」 「俺は、ポテトとドリンクバーかな。」 「…僕もそれにする。」 「おっけー、店員さん呼ぶねー。」 このファミレスに来るまで、会話は2回しか続かなかった。 今日は何時に塾があるのか、このファミレスでいいか。 このふたつだけ。 両方、彼から話しかけてくれた。 原因はわかってる。 僕がうん、とか、いいよ、とか、そんなに繋がらない言葉で終わらせてしまったから。 でも、彼は無理に会話を続けようとしない。 僕が人と話すのが苦手って、わかってくれてるから。 僕と彼は、鞄から数学の教科書とノートを取り出す。 今日書いたばかりのページを開く。 僕はチラッと、彼のノートを見た。 相変わらず、彼の字は綺麗だった。 彼の手も、顔も、仕草も、全部。 だから、クラスの人気者なんだ。 彼は、僕の憧れになった。 入学式の日から、今もずっと。 僕は彼に憧れている。 「先に、ドリンク取り行こうぜ。」 彼が立ち上がりながら言う。 「…うん。」 先に行く彼に、僕もついて行く。
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