第2話 友達

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第2話 友達

僕は、友達がいなかった。 本当にいなかった。 クラスメイト全員が友達と思っていた小学校低学年。 田舎から引っ越して、自分が周りと合わないと感じたのが小学校中学年。 1人の方が楽だと感じたのが、小学校高学年。 それからは、知人と学校を過ごす毎日。 そういう感覚だった。 でも、僕は環境には恵まれていた。 学校行事の担当や係が一緒になったクラスメイトは、僕を気遣ってくれた。 そのときだけは、友達になれた気がした。 でもそれだけ。 担当や係が変わると、途端に話さなくなる。 自分で言ったらなんだけど、僕は係の仕事はサボらず真面目にするタイプだった。 問題を起こさず、できるだけ話しかけられないようにした。 どうしてもしなければならない話し合いも必要最低限で済ませた。 そもそも話し合いをしなければならない係に自分が呼ばれてないこともわかってる。 だから、人の迷惑にはなっていなかったと思う…多分。 僕なんかをいじめてくれなくてありがとう。 いいクラスだった。 それが中学校3年間。 高校の入学式、僕にいきなり友達なるものができた。 それが彼との出会い。 第一印象は、陽キャ。 僕とは相容れない存在。 生きてる世界が違う。 既にクラスで友達を作って喋っていた。 その日は担任の紹介だけで終わった。 自己紹介がなくて助かった。 僕は、早く帰ろうと、プリント類を鞄に入れる。 すると、横から声をかけられる。 「それって、アリス?」 咄嗟に横を見ると、彼が僕の鞄に入れようとしていたクリアファイルを覗き込んでいた。 僕は驚いて固まってしまった。 その時の彼の印象はThe陽キャ。 自分に話しかけられているのかさえ疑った。 僕は、ハッ!と我に返り、慌てて頷いた。 アリスは、僕の好きなアニメのキャラクター。 あんまりアニメってわからないようなクリアファイルを持ってきたんだが。 いきなりのヲタバレでビビっていると、彼は微笑んだ。 「アリスめっちゃかっこいいよな!俺、レイチェルが好きなんだよ。」 そういう彼は、本当に素直に笑っていた。 僕は、こんな陽キャでもアニメを見るのか。 その驚きしか無かった。 また固まっている僕を見て、彼は自分の苗字が刺繍された制服の胸元を指さす。 「俺、望田。望田響輝。よろしく!」 そういう彼に、僕は慌てて答える。 「…かっ、川添 直也、です。」 「川添くん…直也でいい?」 「え?」 「あー、やっぱ初対面で呼び捨てはきついか、ごめんね、」 「いっ、いや、全然、嫌とかじゃなくて、その、驚いただけで、別に、」 しどろもどろになる僕を見て、また彼は微笑む。 「じゃあ直也って呼ぶね、いい?」 「…う、うん。」 僕は彼の勢いに押され頷く。 「俺のことも響輝って呼んでいいから。」 「響輝…くん。」 僕が名前を呼ぶと彼は固まった。 僕は、なにかまずいことを言ってしまったと思って、また勝手に慌てる。 「ご、ごめん、やっぱり名前呼びなんて、僕には合わない、」 「そんなことない!」 彼の言葉に驚いた僕を見て、今度は彼が慌てる。 「あーとにかく、よろしく、直也。」 「…こちらこそ、よろしくね、響輝くん。」 そんなふうに話して、彼は先生に呼ばれているからと、鞄を持って教室を出ていった。 久しぶりにこんなに多くの会話をした僕は、顔が熱いやらとにかく大変だった。 僕も、少し落ち着いてから教室を出た。 下駄箱へ向かって階段をおりていると、何枚かのプリントを持った彼とはちあった。 「さっきぶりー、思ったより早く終わったよ。」 彼はどこか嬉しそうに僕の隣に来た。 「…そうなんだ。」 そこから会話が弾む訳もなく、靴を履き、学校を出た。 しれっと一緒に帰るような感じになっていた。 「直也は、家どこ?聞いてもいい?」 僕は頷き、自分の地区を話す。 「俺、そこ通るな。一緒に帰ってもいいかな?」 僕は頷く。 友達と一緒に帰るなんて、何年ぶりだろうか。 もう既に記憶が無い。 僕は内心、ドキドキしていた。 友達との下校なんて青春じゃないか。 でも、それ以上会話が続くわけもなく。 ただ2人の足音が聞こえる。 彼は僕より身長が高かった。 多分10センチくらい。 彼の顔を伺うことも出来ず、ただ下を俯くことしか出来なかった。 なにか話そう、なにか話そうと思っても、いい言葉が全く出てこなかった。 そう考えてるうちに、僕の家に着いた。 「…ここ、僕の家だから。」 「そっか、結構近いんだな。」 家の近さで高校を選んだなんて言えない。 「じゃあまた明日な。」 「…うん、また明日。」 彼が手を振りながら立ち去る。 僕も手を振り返す。 彼の後ろ姿を見て余韻に浸っていた。 友達、僕には無縁だと思っていた言葉。 でも、明日になれば、彼も違う人と下校する。 嫉妬、そんな言葉ほど重くない。 僕にとってこれは当たり前のことで、奇跡に近い。 僕は彼が見えなくなってから家に入った。
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