第2話 友達

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次の日、登校したら、彼は友達と喋っていた。 僕は自分の席に鞄を置く。 引き出しに教材類を入れていると、 「おはよう、直也。」 後ろから声をかけられ、振り返ると、彼がいた。 「お、おはよう。」 慌てて答えたせいで、上手く彼を見れない。 少し俯いたまま挨拶をしてしまった。 彼は挨拶をしてまた友達の方へ戻って行った。 僕は、挨拶なんて先生くらいにしかしたことがなく、そのときも上手く言えたかどうかドキドキしていた。 極一般的に当たり前のようなことが僕はできない。 自覚しているからこそ、上手くできたかなんて考えてしまう。 彼の方をちらっと見たけど、何も無かったようにまた楽しそうに話していた。 僕なんかに話しかけてくれる優しい陽キャ。 彼は既に僕の憧れだった。 休み時間は授業の息抜きで読書。 家から持ってきた小説を読む。 昼食は一人で食べたかったから食堂の隅で食べる。 食事は黙々と食べるのが習慣になって、人と話しながら食べるのが苦手になっていた。 初めて利用する食堂は、想像以上に広かった。 持参した弁当を食べる人も、購買で買ったパンを食べる人も、友達と楽しそうに話しながら食べていた。 僕は持参した弁当を広げ、食べようとしたそのとき、前の椅子を誰かが引いた。 顔を上げると、彼が居た。 「一緒食べてもいい?」 僕は頷き、慌てて弁当を自分側へ寄せる。 「ありがとう。」 彼が座り、購買で買ってきたであろう焼きそばパンの袋を開ける。 正直気まずい。 話すことも特にないし、食事は一人でするものだと認識している僕にとって、人の目線が気になる。 誰かに見られてるかもしれないという状況で食べると、味がわからなった。 少し食べて、チラッと、彼の方を見ると、パンを食べながらスマホをいじっていた。 僕は、そんなことを気にしてる僕が、馬鹿らしくなった。 無心になって、弁当を食べていると、 「食べにくい?」 彼の方を見ると、僕の方を少し申し訳なさそうに見ていた。 僕は首を横に振る。 「ほんとに?」 彼の問いかけに、僕は少し考えた。 「…人と食べるの、慣れてないから。…ごめん。」 彼は少しの間のあと、わかった、と言った。 「ごめんね、邪魔して。」 そういうと、食べ終わった焼きそばパンの袋とスマホを持って、席を立った。 僕は謝らせたかったわけじゃない。 申し訳なかった。 意気地無しの僕は、彼を呼び止めることも、嫌じゃないってことを伝えることも出来なかった。 僕は、まだ味がわからない弁当を食べた。 午後の授業も終わり、教材を鞄に詰める。 高校生活2日目を終える。 今日から部活動体験が始まった。 僕は部活への興味が少なかった。 教室の後ろに置いてある部活動紹介のプリント集はまだ見ていない。 部活は入る気がなかった。 鞄を持って立ち上がったとき、名前を呼ばれる。 「直也、帰ろうぜ。」 「え、」 後ろを振り返ると、彼が立っていた。 手には部活の申込用紙を持っていた。 僕は、何となく頷く。 「う、うん。」 教室を出る彼について行く。 彼の後ろを歩いていると、彼の足が止まる。 どうしたのかと思っていると、彼が僕の横へ来た。 「友達なんだから、一緒に行こうぜ。」 「…うん。」 僕はなんだか照れくさくなって俯いたまま頷いた。 彼の表情をいつも見ることが出来なかった。 人の目を見るなんて、怖くて出来ない。 「これ、出さなきゃ行けないから、先下駄箱に行っててよ。」 彼は手に持っていた部活申込書を軽く揺らす。 「…うん。」 僕は先に下駄箱に行くことにした。 下駄箱で待っていると、クラスメイトの女子2人に話しかけられた。 「ねぇねぇ川添くんだっけ。」 急に話しかけられた僕は動揺を隠せなかった。 「う、うん。」 「川添くんって、望田と仲いいよね。」 「…そうかな。」 何を言われるのか、僕はビクビクしていた。 やっぱりこんな僕と一緒にいるのが迷惑だったんだ。 僕は、俯き気味で答えると、女子2人に顔をのぞき込まれた。 「望田と川添くんって、同中だったの?望田なんも話してくれなくてさ。」 「そうそう、昨日一緒に帰ろうって言ったのに、断ったんだからね、アイツ!」 「え、」 ポカンとする僕をほっぽって、女子二人は盛り上がっていた。 「望田さぁ、あちしたちと一緒にご飯食べる予定だったのにさ、勝手にどっか行くし、絶対川添くんと食べてたよね?」 「まぁ、予定ってあんたが勝手に決めたヤツだけど。」 女子二人は彼への愚痴を次々に言っていく。 しばらく女子二人の愚痴を聞いていると、 「てかさてかさ、望田って彼女いんの?女子の誘い断るとかまじないっしょ?」 「ねぇーなんか知ってない??」 「え、そっれは、、」 僕が返答に困っていると、 「おまたせ、何してんの?」 彼の声がした。 女子二人が、今まで愚痴ってた内容を彼にぶつけていた。 「今日も川添くんと帰んの?」 「あちしたちとの約束は?」 「俺は、直也と帰んの。」 女子2人をおしのけ、行こう、と自分の靴を脱ぐ。 頷き、彼の方へ行こうとした。 「ちょっち待って待って、」 女子二人に呼び止められた。 まだ何かあるのかと振り返る。 「急に話しかけちゃってごめんね〜!川添くんにもちょっと興味あってさぁ。」 「ただ友達になりたかっただけだからさっ。やっぱクラスメイトとは全員友達になりたいじゃん?」 そんなことを言って、女子二人は立ち去った。 バイバイ、と手を振られたので僕も一応振り返す。 「直也?」 彼に呼ばれ我に返る。 慌てて靴を履き替える。 彼は少し不機嫌そうだったけど、僕がごめん、と謝ると、また微笑んだ。 帰り道、珍しく僕から話しかけた。 でも、1回だけ。 「…な、なんで僕なんかと一緒に帰ってくれるの?」 「え、なんで?もしかして嫌だった?」 僕はブンブンと顔を振る。 「その、ただ、気になって、」 彼は少し ウーン と、うなったあと、また微笑んだ。 「直也と、もっと仲良くなりたいから。」 ニカッと笑う彼の言葉は嘘ではなかった。 仲良く…僕は頭の中でその言葉を何度も繰り返した。 仲良くって、なんだ? そんなことを考えていると、 「直也はなんの部活に入るんだ?」 「え…えっと、僕は部活、入らない、かな。」 「そっか、そうなんだ。」 「…なんの部活にはいるの?」 「俺?俺は、バスケ部。つってもあんまり行けないけど。」 「…そうなの?」 「俺、高校はバイトするって決めてたから。」 「…バイト、すごいね。」 「すごくないよ、ただ欲しいものがあるだけ。」 「…欲しいもの?」 「なんで部活入らないの?いい部活がなかった?」 「…塾があるから、」 「そっかそっか、塾大変そうだな。」 「そうでも、ないよ。」 そんなふうに話して、僕の家の前になった。 「…それじゃあ、また、明日。」 「ああ、また明日な。」 また彼が見えなくなるまで手を振った。
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