第2話 友達

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「昨日、誰と一緒に帰ったの?」 「…え?」 登校して、席に鞄を置いている時に、彼が僕に問いかけてきた。 おはようの挨拶よりも先に。 「俺、待ってくれてると思ってたんだけど。」 「ご、ごめん、、部活があると思って。」 「部活は、来週から。てか、誰と帰ったの?」 「…えっと、、」 女子二人の方を見ると、大きく手でバツ印をしていた。 「ひ、ひとりで帰ったよ。」 「それ、ほんとに?」 僕は誤魔化すように、大きく首を縦に振った。 彼は大きくため息を着いた。 「部活あるときは言うから、一緒帰ろう。もしかして、一緒に帰るの嫌になった?」 これに対しては、首を大きく横に振る。 「そ、そんなことない、」 「…そっか、なら良かった。俺って、直也の友達だよな?」 これに対しては、首を縦に大きく振る。 「う、うん。」 その言葉が嬉しかった。 笑顔がこぼれる。 僕を見て、彼は微笑んだ。 「俺たち、いい親友になれるかもな。」 「し、親友…。」 僕は顔が熱くなる。 親友なんて、1人もできたこと無かったのに。 嬉しそうにしている僕を少し不思議そうに見る彼。 僕は彼と目が合う。 昨日伝えようとしたことを思い出した。 「お、お昼ご飯、その、嫌じゃなかったら、一緒に、食べてくれない?」 「…え?」 僕の言葉に驚く彼。 僕は言った言葉が恥ずかしくなり、 「や、やっぱり、なんでもない、、忘れて、」 そう言っていると、彼は、 「いいの?俺、迷惑じゃない?」 「…え?いや、迷惑なんて、、その、人と食べるの慣れてないだけから、その、、」 「じゃあ、俺で慣れればいい。」 そう言って、ニカッとまた笑う。 彼の笑顔は、いつも僕を安心させる。 彼の言葉に頷く。 それから午前の授業が終わり、昼食の時間になった。 「直也、行こう。」 「…うん。」 今日は、彼と一緒に食堂へ向かった。 彼は購買でパンを買った。 食堂の隅の席に座った。 座ってしまったあとに、気づく。 「あっ、、この席で良かった?ごめん、勝手に座って、、」 慌てて申し訳なさそうに言う僕に、彼は笑った。 「そんなことでいちいち気にしなくていいよ。なんかあったら俺からも言うし、友達なんだから、な?」 「う、うん。ありがとう…。」 「食べようぜ!」 「…うん、」 彼はまた焼きそばパンだった。 弁当を広げながら、僕は珍しく話しかけた。 「…焼きそばパン、好きなの?」 「あー、好きって訳じゃないんだけど、選ぶのがめんどくさいし、」 「…そうなんだ。」 それで会話は終わり。 結局会話は続かない。 それからは2人して黙々と食べた。 「直也は、弁当なんだな。」 「…う、うん。」 半分くらい食べ終わったとき、自分のことを言われ、少し動揺した。 いや、いつも動揺しているのに変わりはない。 「どれも美味そうだよな。直也の母さん、料理上手なんだな。」 「…これ、僕が作ってるから。」 「え?まじ?」 恥ずかしくて、顔をあげられなかった。 また弁当の味が分からない。 「へ、変だよね。自分で弁当作っちゃうなんて、、」 「は?変じゃねぇよ。尊敬するぐらい。」 その言葉で恐る恐る彼の顔を見ることが出来た。 「料理めっちゃうまいじゃん!1個くれよ!」 「え?い、いいよ。」 僕は、いちばん得意な卵焼きを箸でつかみ、彼の方へ出す。 「はい、、」 「…え?」 彼は珍しく照れたようにこちらを見ていた。 僕もハッと我に返り、今の状況がいわゆる あーん 状態だと気づく。 慌てて卵焼きを元に戻し、弁当ごと彼の方へ渡す。 「ご、こめん、いつもの癖でっ。」 「…いつもの癖?」 それを聞いた彼は少し不機嫌そうな顔になった。 でも、僕がもう一度彼の顔を見たときは、彼はいつもの優しい笑みを浮かべていた。 彼は、その笑みのまま、もう一度僕の方へ弁当を寄せた。 「いいよ。俺に食べさせて。」 「で、でも、響輝くん、困ってて、、」 「友達ならこれくらいして当然だろ?ほら、早く早く。」 「…う、うん。」 僕はもう一度卵焼きをつかみ、彼の口の中へ入れた。 彼は、もぐもぐと僕の卵焼きを食べた。 しばらくして飲み込んだ。 どうだろう、と思っていると、 「めっちゃおいしい!!こんなの作れるなんて天才だな!」 「そ、そんなこと、ないよ、」 僕は照れて、また俯いた。 「俺の母さんなんて、ほぼほぼ冷食ですませる人だからな。」 「…僕の両親、共働きで、妹にも作ってあげてる、から、」 「え?妹いんの?」 「う、うん。2個下。私立の中学だから、弁当がいるって、なって、それから弁当、作るようになって、料理、元々好きだったから、それで、味見させるとき、の癖が出て…。」 「あぁ、そういう癖…」 何故か彼が照れていた。 不思議に思っていると、誤魔化すように、 「いいなー、俺もこんなうまい手料理食べれたらな〜。」 「…作ろうか?」 「え?いいの?って、いやいやいや、悪いってそんなの。」 「…妹の作るついで、だよ。」 「…ついで、か。」 「あ、やっ、やっぱり、迷惑だった、かな、」 「え?ちがうちがう、迷惑なわけないだろ?じゃあ、お願いします。」 彼は微笑みながら言った。 僕もそれに頷く。 「…う、うん。明日から、作って、来るよ。」 「明日!?そんな、急にいいの?」 「う、うん。」 「なんか、悪いな。」 「そっ、そんなこと、ない。」 「…そっか。ありがとう。」 そんな会話のあと、僕は弁当の残りを食べた。 味ははっきりとしていた。
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