どうかずっとこのままで

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 同窓会は、訳あって小さなお店を貸し切って行われた。参加人数は一クラス、三十人。店を貸し切りにするということで、会費は少々高くなってしまったが、広々とした空間に美味しい食事。何より人目を気にせず騒げるということで、参加率は上々だった。そして出席率を上げた一番の要因は、おそらく彼だろう。城戸嶺亜、爽やかな好青年としてお茶の間に広く知られている、若手俳優だ。彼が同窓会に来ると聞いて、幹事は慌てて貸し切りの出来る店を予約したし、彼が来るからこそ女性陣は全員出席という脅威の参加率を示したのだった。 「澪ちゃん、髪伸びたね」  伊藤澪の隣には、十年来の友達である柳瀬まどかが座っている。とは言っても、違う高校に進学し、大学生となった今では、ほとんど会うこともない。約三年ぶりに会った友人は、昔と変わらない笑みを浮かべているが、化粧をして大人っぽくなっていた。 「昔はショートヘアが好きだったから」  肩につかないくらい短めの髪が好きだった。理由はとても単純で、好きな人が似合うと言ってくれたから。一度ばっさり髪を切ってから、中学生の間伸ばすことがなかったのは、彼の言葉が原因で間違いない。 「髪も伸びたし、メイクもしてるから、澪ちゃんすっごく大人っぽくなったよね」  かわいい、と褒めてくれるまどかに、澪は笑い返す。まどかちゃんも久しぶりに会って見違えるくらい大人っぽくなっていたからびっくりしたよ、と。  まどかと二人で昔話に花を咲かせながら、周りを見てみると、女子たちがみんなそわそわしているのが分かる。まだ嶺亜は来ていない。きっといつ来るのかと待ち侘びているのだろう。  一方でまどかは嶺亜のことなど全く気にしていないようで、他の人の話ばかりしている。昔好きだった高橋がすごくかっこよくなっていてドキドキしちゃった、と話されたときには、思わず目を丸くした。 「まどかちゃん、彼氏いるんじゃなかった?」  会話の冒頭に、確かそんな話を聞いたはずだ。 「彼氏はいるけど、中学生の頃好きだった人って、なんかちょっと特別じゃない?」 「んー、分かるかも」  まだ恋を知らなかったあの頃。初めて本気で人を好きになって、傷ついて、泣いて、それでも好きで。そんな青々しい恋は、きっと中学生という若さによって成せたものなのだろう。 「えっ、分かるってことは、澪ちゃんあの頃好きな人いたの?」  知らなかったんだけど! とまどかが声を上げるのと同時だった。  からんころん、と入り口の鈴が鳴り、扉が開く。そこから顔を出したのは、テレビでよく見るお馴染みの姿。城戸嶺亜だった。 「わっ、城戸じゃん。本当に来たんだ」  売れっ子なのによく来てくれたよね、と言葉を返すと、まどかは大きく頷いた。 「今じゃテレビで見ない日、ないもんね」 「まさかクラスメイトから芸能人になる人がいるとは思わなかったよね。しかも売れっ子俳優」  まどかと二人で遠目に見ていると、ばちっと目が合ってしまう。慌てて逸らしたが、もう遅い。すたすたと足音が聞こえ、おそるおそる顔を上げる。目の前の空いていた空間に座ったのは、間違いなく嶺亜だった。  嶺亜は周りの目なんて全く気にすることなく、迷わず澪の前の席を選んだのだ。自然と正面の澪に視線が集まる。  女子たちから「誰だっけあれ?」「伊藤さんでしょ」「えーなんで澪の前なの?」と次々に声が上がる。居た堪れない気持ちになりながら、澪は自分の膝に視線を落とした。せめて嶺亜の隣の席に誰かが座っていたならば、誤魔化すことも出来ただろう。しかし生憎、その席に荷物を置いていた男子はとっくに席を立ち、他のグループで歓談している。澪がいる場所は端の方の目立たない席だったので、退屈だったのだろう。  まどかが小声で「なんで城戸、こっちに来たの?」と澪に囁きかけるが、何も答えることが出来ない。  どうしよう、とぐるぐる回る頭で、テーブルの上のグラスを引き寄せ、澪は一気に白桃サワーを飲み干した。
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