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結果として、倍率の高いオーディションを見事勝ち抜き、嶺亜は芸能事務所の所属となった。オーディションの副賞でもあった雑誌のモデルにも起用され、すぐに彼は芸能界の一員になってしまった。
嶺亜は自分の性格を隠し、爽やかな好青年キャラを演じていた。雑誌のインタビューページは別人のようで、澪はそのページを何度も読み返してしまったほどだ。
受けたのが有名なオーディションだったこともあり、嶺亜がテレビでデビューするのもそう時間はかからなかった。小さな役ではあったが、ドラマに出演したりもした。まだ演技のレッスンを受けている段階だから下手くそで恥ずかしいと嶺亜は言っていたが、持ち前の器用さが功を奏したのか、見ていて違和感を覚えるような演技ではなかった。
彼が事務所に所属してから半年が経った。学校では嶺亜の話題で持ちきりで、本人は仕事やレッスンで学校を休むことが増えた。澪には連絡をくれるが、毎日だったメッセージが一日おきになり、週に一度へと変わり、ついには澪から送っても返信が来なくなった。
動機は不純だったが、嶺亜が芝居に夢中になっていることは明らかだった。
「随分遠い存在になっちゃったなぁ」
ぽつりと一人暗い部屋で呟くと、虚しさが胸いっぱいに広がる。
スマートフォンのメッセージアプリを立ち上げ、嶺亜と最後に交わしたやりとりを見返す。
『俺、高校は芸能課のあるところを受けるから』
『そうなんだ。じゃあ高校は別々になっちゃうね』
澪のメッセージに、返信はなかった。
ただでさえ会う機会が減ってしまっているのに、別の高校に進学したらどうなるのだろう。そもそも、嶺亜と澪はほとんど連絡をとっていない今も付き合っていると言えるのだろうか。
もやもやとした気持ちが込み上げてきて、澪を不安にさせる。嶺亜はどう思っているのだろうか。
芸能界に入るきっかけは澪だったかもしれない。でも、今は?
澪よりもずっとかわいくて綺麗な人が周りにいる環境で、芝居に打ち込んでいる。共通の話題がある人。例えばドラマの共演者と、いい関係にならないと、どうして言い切れるだろう。
想像して、ずきん、と胸が痛んだ。
後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
澪は嶺亜が芸能界を目指し始めてからずっと、後悔ばかりしている。
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