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二夜目
『おはようございます――』
雄太は無理やり開けた目の隙間からクリーム色の天井を眺めた。休んだ気はしない。
機械的なアナウンスが朝食の配布を知らせる。終了まで部屋のドアを開けてはいけない。
夕べ始まった検疫のための六泊のホテル隔離。個室に籠り、機械的に配られる弁当を消費して、誰とも話もせずダラダラと孤独な時間を過ごす六夜だ。
(まるで囚人だな)
ごろんと横になる。ベッドの寝心地が良いのがせめてもの救いだ。
見ると、時間は午前八時前。雄太は細く息を吐き、ベッドサイドの明かりをつけた。
白い光の下、カーペットに広がるスーツケースに目をやる。傷もついたしあちこち汚れているが、それも今となっては誇らしい。
「……お疲れ」
今日初めての言葉だ。聞く相手はいない。
空港で会った彼の姿が浮かぶ。
イトウさん。
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