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滑らかな男性の声だった。電話はマスク越しの声よりずっとはっきり聞こえる。
だが内容からして、係員ではないらしい。
「何のですか?」
『さっき係の人に怒られそうになったじゃないですか、僕のせいで。あと小銭入れを見つけてくれたのもあなただと聞いたので。あ、僕、4031号室からかけてます』
「あ……」
そこで雄太も全貌が掴めた。自分と隣を隔てる壁を見る。
「Ito, Jin さん?」
『え、なんで名前――』
「あ、えっと、昨日空港で会ったじゃないですか? その時、搭乗券が見えて……」
慌てて弁解すると、彼は「ああ」と納得してくれた。
『何かと縁がありますね、僕たち』
「……はい」
『どうかしました?』
擦れ気味な声は鼓動が速まっていたせいだと、そう訊かれて気づいた。
「いえ。ただ……」
羽田に着いてからの長い冷たい時間を思い返す。独りで、静かすぎる一夜だった。
「……久しぶりにちゃんとした会話ができて、ちょっと感激して」
『じゃあ明日もお話します?』
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