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三夜目
昨日の落し物から始まった隣室の男性、伊藤仁との縁はあっという間に進展した。
「仁さんさ……『いい人なんだけど』とか言われていつも友達とどまりにされるタイプでしょ」
雄太は昼食後のコーヒー二杯目を片手に、どんどん会話を広げていく。
元から話すのは大好きな雄太だ。アプリで友達登録後、親身な話題になるまでそう時間はかからなかった。
『ああ……外れではないかもね。昔から世話には縁があるし』
テーブルの上、通話中のスマホのスピーカーから彼の笑い事がした。
「たとえば誰のですか?」
『一回り下の妹がいて。でも生まれるとほぼ同時にシングルマザー家庭になったから、僕が父親代わりのようなもので。母親にも頼りにされてきたと思う』
一回り年下。仁は今二十三歳ということだったから、つまり……と色々逆算してみた。
(そんな時から……)
隣室の男に対して強い尊敬が湧く。
雄太も弟がいる「兄貴」だが、同じような役目を求められたとして、できたとは思わない。
「二人とも、仁さんのこと待ってるんですよね」
『まあ。会いに行く人なら他にもいるけど』
肯定する彼に、雄太は憧れと羨望が湧いた。
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