三夜目

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 スマホを持つ手が重くなる。話の内容もたぶん重い。  でも、画面の穏やかな視線を見て思った。彼なら、きっと。  雄太は改めて口を開いた。 「……休学して、語学と学部聴講の留学に行ってきたんです、九ヶ月間。交換留学が感染症のせいでなしになって」 「うん」  だろうね、など、大学を許容する返しはなかった。 「俺、一度海外に住んでみたいってずっと言ってて、だから私費でも行きたくて……卒業しちゃったらもうチャンスもないし、今しかないと思って。でも相談したら猛反対されたんです」 「そうか」  もう二年近く前の話なのに、今も思い出すと悔しい。 「何考えてるんだ、自粛しろ、息子がこのご時世に大学休んで呑気に海外に行くなんて身内や近所に言えやしないって」  スマホを持っていない手が拳に固まる。 「……昔は応援してくれてたのに」
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