一夜目

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一夜目

 今夜、東京は積雪らしい。  すでに閉じ込められた気分になった雄太(ゆうた)は、硬い椅子で身じろぎしマスクを整えた。  眼前の異様な光景を眺める。自分とあと十数人を囲う簡易的な非常線の向こうでは、たくさんの人が入国後のを待っている。自分と同じ大学生かと思う若者も、くたびれたスーツの男性も、家族連れも。  スマートフォンで時間だけを確認した。コンセントの取り扱いに負けたせいで電池の無駄遣いもできない。  夜の七時前。もう羽田に着いて四時間近くたっているのだ。なのにまだ空港を出られてもいない。孤独だし退屈で窮屈だし、腹も減った。  前の椅子を蹴りたくなる。居心地の悪さで言ったらまだヒースローのほうがマシだった。去年の四月――もう九ヶ月も前――のことだ。 (帰る時のほうが気分悪いってどういうことだよ)  自分は陰性と出たし、やましいことなどないはずなのに。出発地がイギリスであるだけで今夜から指定の施設で六泊とさらに自宅で七泊の隔離が待っている。九ヶ月ぶりの日本で自由にできるのはその後だ。  例の感染症は本当に多方面で「当たり前」を狂わせたものだ。
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