人生の歯車

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人生の歯車

 人は誰もが『死』と向き合って生きていかなくてはならない。それがどんなに悲しくて耐えられなくても、絶対に避けては通れない道だから。   それまでは僕にとって一つの言葉に過ぎなかった死というものが、ある出来事から現実のものとして認識されるようになった。死は水や空気と同じように当たり前にあるものだったんだ。いつでも、どこにでも、誰にでも。  やがては父さんも母さんも、いつかは僕も死ななくてはならない。死んだその後どうなるのかわからないから、ただ恐怖だけがある。でも死んでしまえば考えることもできないし、怖いと思う自分すら消えてしまうんだ。そうすると結局どうなるの・・・?わからない。  死とはなんだろう?命とは?最近、そんなとりとめのない事ばかり考えるようになった。テレビを見ている時も勉強している時も御飯を食べている時も、それは常に頭の片隅に居すわって、今もメビウスの輪みたいにグルグル回り続けている。  その答えが導き出されることは今後もないのかもしれない。けれど、それをきっかけに僕の考え方や生活が少しづつ変化しているのは確かだ。死というものを意識し始めたことで、それまで気付かなかったいろんなものが見えてきた気がする。そう、欠けていた一つの歯車が本来あるべき場所に嵌め込まれた日から、人生という大きな機械がようやく動き始めたみたいだった。  結局のところ人は何故生きるのだろう?いつかは必ず死ななくてはならないのに、人生に意味なんてあるのかな?・・・いや、それを探すんだ。自分の力で、持てる全ての時間を使って。そう思い至った瞬間こそが僕の人生という長い長い旅の本当の始まりだったにちがいない。  僕がこういう考えを巡らす時、それに伴って必ず思い出されることがある。まだ小学校六年で十二歳だった時の出来事だ。その夏休みも僕は父さんの生家のあの海辺の家で、仲良しの従妹の夏実さんや伯母さんと一緒に過ごしていたんだ・・・。
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