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十四歳
あれから二年が経って僕は十四歳になった。背丈はずいぶん伸び声も変わったけれど中身はほとんど変わらずに。学校や両親に対する不満とか将来への不安とか、相変わらずの悩みを抱えて毎日を過ごしている。
それらの原因の多くはコントロール不能な僕の自我に端を発している。具体的に言えば、僕は他人と同調するのが大の苦手なのだ。
たとえば・・・僕はクラスの子達とあまり会話が弾まない。流行のアニメとか芸能人とかサッカーとか、皆が好きなものにぜんぜん興味がないから。それでいて他の子達には取るに足らないようなものに価値を見出していたりする。
『え〜!?サッカーくらい見とけよ~!』
『そんな時間があるならビートルズやビル・エバンスを聴いていたいよ。それに本も読みたいし』
だって、もし音楽を聴きたいのにサッカーを見てしまったら、本当は音楽を聴きたかった僕は殺されてしまうのと同じじゃないか。僕は音楽が好きだから僕なのであって、サッカー好きになったらそれはまた別の人間ということになってしまう。
人間にとって時間とは命そのものだ。その時間は自分の価値あるものに費やしたいし、それを邪魔されたくもない。僕は間違ってるのだろうか?大人は口をそろえて、もっと友達と話しなさい、人に興味を持ちなさいと言うけれど、どうして他人がつくったルールに従わなくてはいけないのか、どうしても理解できなかった。
かくして僕の戦いが始まった。殺されてしまわないために。自分が自分であり続けるために。でも結局それは、僕一人が全世界を相手にするという、とうてい勝ち目のない無謀な戦いだ。それに気が付いた時には周囲は誰も敵ばかりになって、僕は孤立してしまっていた。
教室の中でたくさんの悪意が孤立する僕に向けられた。実際、中学生の子供なんて思慮分別のない化け物のようなものだ。毒を塗った刃で斬られた傷が癒えずに腐っていくみたいに、突き刺さった悪意は僕の心を真っ黒に侵食していった。
ああ、もう疲れたな・・・。最近、僕は気が付いたことがある。それは、死というのは恐ろしいけど、生きていく事も同じくらい怖いのだということ。そして、生きていく事は長くて大変だけれど、死ぬのは一瞬で意外に簡単なのだということ・・・。
もし今、学校で僕が死んだとしたらどうなるだろう?まず警察が来て、クラスの生徒が一人ずつ話を聞かれて、 全校集会が開かれて、テレビのニュースになって・・・。 だけど、それが一通り終わればすぐに忘れ去られて、最初からいなかったみたくなるんじゃないかな。こんなの今どき珍しい話でもないし。父さんと母さんには期待に応えられなくて申し訳ないと思うけど、まあ僕は思ってたような子じゃなかったってことさ。
気が付けば一日に何回もそんなことばかり考えるようになっていた僕は、かなり崖っぷちの危険な場所にいたのだと思う。でも僕の苦しみを理解したうえで窘めてくれるような人はどこにもいなかった。
・・・そんな時、また夏が巡ってきた。僕はニ年ぶりにあの伯母さんの家に泊まりに行くことになった。
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