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激しい揺れと騒音、人びとの怒鳴り声。
狭いシートの上で防御姿勢をとろうにも、全身を包むスーツのせいで屈むこともできない。気づけば機内は静まり返り、ヘルメット内蔵のスピーカーから機長のささやきが聞こえた。
『神さま……!』
次の瞬間、ぼくらを乗せた補給船は地表に激突した。
一定間隔で鳴り響く電子音。目を開くと、ぼくの視界は赤や黄色の点描で埋め尽くされていた。
「うわあっ」
慌てて振り払おうとして、腕が持ちあがらないことに気づく。全身の自由が利かなくなっていた。ぼくは芋虫のように身をよじり、恐怖の悲鳴を上げた。
『うるっせえな!』
そこに雷が落ちた。鼓膜を殴るような大音量に思わず目をつぶる。だが、物理的な恐怖にはパニックを抑える力もあったようだ。数秒待ってこわごわ目を開くと、眼前でちらついていた無数の点は文字と記号の羅列に変わっていた。
ようやく現実を認識する。ぼくは今、自分のパワードスーツの中に横たわり、ヘルメット内のモニタに表示された大量のアラートを見ているのだった。
スーツの腕は相変わらず動かないが、ぼく自身の指先を動かせばモニタ上にカーソルが現れる。ぼくはアラートを一つ一つ確認していった。
わかったのは次のようなことだった。
墜落の瞬間、スーツはぼくの生命保護を最優先事項とし、安全機構を働かせた。中身を胴体部分に収納したあと、腕や脚に充填されていた人工筋肉を酵素で変質させ、緩衝材として利用したのだ。結果、今のぼくは頭部と胴体だけのヒョウタンみたいな形状に変化したスーツに包まれて地べたに転がっている。
幸いなことに、頭部前面のカメラアイはまだ生きていた。モニタをカメラ映像に切り替えると、四方にそびえ立つ氷の壁が映し出される。惑星グルディスは今、氷期の真っ最中だ。全体が数十キロの厚みをもつ氷床に覆われ、その表面では時速百二十キロメートルを超える猛吹雪が吹き荒れる。補給船の墜落も、想定外の吹雪に巻き込まれてのことだった。
だが今、ぼくは吹雪の届かない場所に横たわっている。船の残骸がないところを見ると、墜落現場からも離れているようだが……。
そこまで考えて、さきほどの怒鳴り声に思い到る。かろうじて動く首をあちこちめぐらせてみれば、ぼくの頭の先に、真っ黒な塊が背を向けて座っていた。
「きみ……」
『うるせえ、黙ってろ。今、ES書いてんだからよ』
めちゃくちゃ不機嫌そうな声が返ってくる。ぼくは背中に汗をかき始めた。間違いない……彼は就活生だ。
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