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開いたままのドアからは、鏡に映ったななみが見えた。
ドアと壁の間に隠れているつもりで、眉毛をしょんぼり下げて、ドアノブを握りしめている。
きっと、ななみのお腹には今、カナシンボかいじゅうがいる。
お母さんに叱られると現れる、カナシイ、カナシイ、とななみの涙をどんどん出させるかいじゅうが。
あかりはドアノブを握りしめる小さな手に、優しく手を重ねた。ななみは下を向いたまま、ドアノブを離さない。
仕方ないなあ、とあかりは思った。
「ななちゃん、ほら見て〜!」
目を口をぱかっと開けて鼻の穴を大きく広げ、べろーんと舌を出した。そのまま、鼻を指でくいっと上に向ける。
ななみはそれを見て、ぎゅっと唇を結んだ。今だ。
あかりはななみのお腹に攻撃を仕掛ける。
「ななちゃん、こちょこちょこちょ〜」
変顔も忘れない。今度は目を上の方に向けて、梅干しを食べたみたいにしわくちゃの顔になった。
「ぶっ、ふふ、あはは……」
こらえきれずに笑い出したななみを、あかりはすかさず、ぎゅうっと抱きしめた。
ななみの腕もあかりの背に回って、ちょっと苦しい。
でも、これでもう大丈夫。
かいじゅうはいなくなった。
あかりも強いのだ。
お母さんに叱られたときに出てくるななみのカナシンボかいじゅうは、あかりにしか倒せない。たぶん。
「仲直りできたんだね」
ぎゅっと抱きしめ合う二人を見つけて、お母さんが言った。
「あかり、ななちゃんを笑わせるの上手でしょ?」
あかりがふん、と鼻を膨らませて言うと、お母さんまで笑い出した。
「そうだね。助かるよ」
お母さんは二人の頭に手を置いて、いたずらっぽく笑った。
「おやつ食べるひとー?」
「「はーい!」」
お母さんがこっそりあかりの分を増やしてくれる時もあるけれど、おやつの量はだいたい同じ。本当は、もう少し多い方がいい。あかりの方が大きいのだから。
お姉ちゃんて大変、とあかりは思う。
でも、みんな笑ってるなら、それでいい。
かいじゅうが出てきたら、またやっつけてあげるね。ななちゃん。
ビスケットをうれしそうに頬張るななみを見て、あかりもビスケットにかぶりとかじりついた。
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