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あかりはぎゅっと両手を握りしめた。
お腹の中がぐるると動いた。
ななちゃんはずるい。
「カナシミ」のお手本みたいな顔をして、あかりの妹はぽろりと涙をこぼした。
ぱたぱた走っていって台所のお母さんの腰にしがみつき、顔をごしごしこすりつけている。
「なあに、ななちゃんどうしたの?」
水を止めたお母さんが振り返った。
泣き虫ななみは「カナシミ」の顔のまま、何も言わない。
「あかりちゃん、何があったの?」
お母さんの眉毛はきゅっと寄っている。
あかりのお腹の中はかっかと熱くなってくる。
なんで、とあかりは思う。
なんでそんな顔で、あかりに聞くの?
ななちゃんはずるい。
わりこみするし、ごめんねって言わないし、すぐ抱っこしてもらえるし、チョコを食べ始めたのは3歳より前からだったし、それに、泣いたら絶対にみんないうことを聞くと思ってる。
絶対の絶対の絶対に思ってる。
あかりのお気に入りのキラキラペンを勝手に持っていって使ったくせに、取り返しただけで泣き出した。
ちょっと乱暴だったかもしれないけれど。
でも泣きたいのはあかりの方だ。たくさん使うとすぐに色が出なくなっちゃうって聞いたから、大事に大事に使ってたのに。
あかりのお腹の中にあらわれたのは、あついあついオコリンボかいじゅう。
ずんずんむくむくと膨らんで、あかりの体いっぱいに広がっていく。
日曜日の朝のアニメに出てくるワルモノみたいに、どんどん大きくなっていく。
「あかりはなにもしてない」
「え? 何?」
「しらない!」
思ったよりも大きな声が出た。あかりはバタンッとドアを開けて、リビングを飛び出した。
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