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芽衣子の孤独
どうしてあたしだけ、ピアノを辞めなかったんだろう。
必死で鍵盤を叩く。新しい音を探そうとする。だけど何も生まれて来てはくれなくて、どうしてこんな思いをしてまでこの白と黒の物体にこだわり続けているのだろうと途方にくれる。
「次のライブは、ちょっとお休みしようか」
集客力が次第に落ちていることは、あたしだって判っていた。観客の反応が思うように帰ってこない状況が続けば、定期的に出演出来なくなることも、わかっていたはずだった。
「もう少しなんです。そうしたら前の倍以上は集客が見込めると思うんです」
「芽衣子さん、ちょっと休んだら? もう出さないって言っているわけじゃないんだから」
「定期的に発表し続けられる場所があるっていうのが、あたしの支えなんです」
「それはよくわかってるよ。ずっと頑張ってきてたからね?」
「お願いします。あと一回でいいんです。来月また、唄わせて下さい。そうしたら絶対に結果を出しますから!」
あたしは今、とんでもなくみっともないだろう。叫んで、縋って、泣き喚いて。だけどもう引き返せないのだ。
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