芽衣子の孤独

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ピアノの音が聞こえる。  ドレミファソラシド、ド、ド、ド。  優衣子のピアノは確かなピアノ。  忠実に、真剣に向き合う優しいピアノ。  芽衣子のピアノはやんちゃなピアノ。  オタマジャクシのストレスを解き放つ、いたずらっこのピアノ。  白と黒。  たった二色の上に、あたしの指先は肌色を与える。  興奮に赤く染まっていく指先。花が咲いたように、ぱっと染まる色。そして膨らむ音。  全てはドの音から始まって、全てはこの白と黒の上から始まって、あたしの中から生まれていく、広がっていく、解き放たれていく。  たまらなく愛しい、あたしの音。  好き勝手に走り出したあたしのリズムを、優衣子の確かなリズムが追いかける。  行く先を見失わないように、一人で彷徨わないように、優衣子の音が、教えてくれる。  いつからか聴こえなくなってしまった、優衣子のリズム。優衣子のメロディ。
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