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優衣子
薄いピンクのマニュキュアは、受付としての最低限のマナーだと先輩に教わった。
お化粧も、マニュキュアも、学生時代は罰せられるべき対象だったのに、大人になった途端にマナーに変わるんだから、不思議なものだ。
十五歳でピアノを辞めてから十年、あたしの爪はこんなにも長く艶やかになって、見知らぬ誰かのために着飾り続けている。
ぺとん、ぺとん。つるん、つるん。
はみ出したピンク色は、綿棒に付けた除光液で綺麗にふき取っていく。
はみ出すことを許されず、綺麗であることを求められ続ける指先は、もうメロディを奏でてくれることはなくなった。
芽衣ちゃんのゆびさきが、何かに取りつかれたようにがむしゃらに動き出す。
わぁっ、と歓声があがる。
かと思いきや、シン、と緊張が走る。
誰もが芽衣ちゃんに釘付けになっている。
たくさんの拍手の向こう、ゴールドの光の中で、笑っている芽衣ちゃんがいる。あたしと同じ顔をして、あたしと同じ笑顔をして、だけどたくさんの人達を観ている、芽衣ちゃんがいる。
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