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優衣子の願い
大学には進学しない、と芽衣ちゃんが言い出した時、あたしはちょっとびっくりした。
とりあえず大学に行って、余った時間で音楽を続けていくものだとばかり思っていたから。
「とりあえず、とかいう逃げ道は作りたくないの」
高校に入ったころから、芽衣ちゃんは自分で作った曲に歌詞をのせて歌うようになった。
はちゃめちゃなメロディ。だけど一度聴いたら忘れられなくなるような、無邪気で元気なリズム。
あたしは先生の言われる通りに弾き続けたけれど、あたしのピアノには、新しいものを作りだす可能性は微塵もなかった。
「出来ないなんて言ってないで、やってみればいいじゃん」
芽衣ちゃんは簡単に言ったけれど、あたしにそんな才能はなかった。
産まれる前からずっと一緒で、産まれてからも、同じように生きてきたあたしたちだったけれど、思えばあの瞬間から、歩む道が別れたのかもしれない。
大学に進学した、あたし。大学には行かずに、アルバイトをしながら路上ライブやオーディションに積極的に参加し始めた、芽衣ちゃん。
とりあえずの生き方を探すしか出来なかったあたしには、キラキラ眩しく見えて、仕方がなかった。
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