3人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「また新曲作り? 大変だねえ」
「プロとしてやっていくっていうのは、そういうことだしね、頑張るよ」
ポーン、と、触れた最初の音は、ド。
始まりの音が、芽衣ちゃんは一番好きなんだと言う。
十年前までは二人で取り合って練習していたピアノも、今は芽衣ちゃんだけのものになった。大事に磨きこまれてぴかぴか光る鍵盤は、きっともうあたしの指先のことなんて覚えていないだろう。
「そうだ、折角だから一曲は優衣子のために作ってあげる」
「えっ?」
「結婚祝い。安上がりでごめん」
「そんなことない、ありがとう!」
笑い返してくれる芽衣ちゃんは、あたしと同じ顔をしているはずなのに、とても凛々しく見える。夢や目標に向かって堂々と突き進んでいる自信に満ち満ちた顔。
左手の薬指には、彼から貰ったエンゲージリング。双子の姉からは、マリッジソングが届けられる。
いつも与えてもらってばかりで、何もしてあげることが出来ない、あたし。
「芽衣ちゃん、頑張ってね」
祈る気持ちだけはいっぱいに込めて、笑った。
最初のコメントを投稿しよう!