優衣子の願い

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「また新曲作り? 大変だねえ」 「プロとしてやっていくっていうのは、そういうことだしね、頑張るよ」  ポーン、と、触れた最初の音は、ド。  始まりの音が、芽衣ちゃんは一番好きなんだと言う。  十年前までは二人で取り合って練習していたピアノも、今は芽衣ちゃんだけのものになった。大事に磨きこまれてぴかぴか光る鍵盤は、きっともうあたしの指先のことなんて覚えていないだろう。 「そうだ、折角だから一曲は優衣子のために作ってあげる」 「えっ?」 「結婚祝い。安上がりでごめん」 「そんなことない、ありがとう!」  笑い返してくれる芽衣ちゃんは、あたしと同じ顔をしているはずなのに、とても凛々しく見える。夢や目標に向かって堂々と突き進んでいる自信に満ち満ちた顔。  左手の薬指には、彼から貰ったエンゲージリング。双子の姉からは、マリッジソングが届けられる。  いつも与えてもらってばかりで、何もしてあげることが出来ない、あたし。 「芽衣ちゃん、頑張ってね」  祈る気持ちだけはいっぱいに込めて、笑った。
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