芽衣子の焦り

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芽衣子の焦り

 どうして世の中は、若い子ばかりもてはやすのだろう。  「二十歳の才能、衝撃のデビュー」、と書かれた雑誌をめくりながら、自分がもう若いとは言われない年齢に達してしまったことを実感する。  バイトに、曲作りに、ライブに、動画配信に、オーディションに、ボイトレに……、頑張っているつもりでいても、上を目指す人ならば誰でもやっていることだ。  七年も続けてきたものの、諦めるタイミングを失って意地になっているようなものだと、最近は思う。  伸び盛りの若い子は、次から次へと現れる。全ては縁とタイミング。焦ったって仕方がないということはよくわかっている。  信じて続けていくこと。それが唯一で絶対の、好きって気持ち。少しでも迷って続けられなくなったら、全てが終わってしまう。  次から次へと人々を押し流していた信号が、赤に変わる。横断歩道の向こう、ビルに張り付いた大きなスクリーンでは、最新音楽ヒットチャートの映像が流れていた。  恋に恋する女の子の唄が、街中に響き渡る。  ブラウンの巻き毛に、大きな瞳。ピンクに光る唇と、指先。二十歳の女の子がひたむきに歌っている。時々音を外すけれど、それすら愛嬌に変えてしまえる若さがある。
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