芽衣子の焦り

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「私、結婚するんだ」  優衣子に打ち明けられた時、とうとうその日が来たかと思った。  優衣子の彼氏は、ライブに必ず来てくれていた。学生時代軽音サークルに所属していたそうで、毎回熱烈な感想をくれる。そんな彼の隣で、優衣子はいつもにこにこ笑っている。  ゆるく持ちあがる頬。やさしく細められた瞳。艶やかに光る、ピンク色。  ふたり並ぶ姿を初めてみたその日から、あたしはずっと覚悟をしていたように思う。  ピアノを辞めて、とりあえずで大学に行って、就職して、普通の恋愛をして、プロポーズされて、甘ったるいだけの下手くそな歌声に共感して、感動して、涙する。それが幸せってことなのかもしれない。  努力は報われる、なんていうけれど、ピアノを続けても、何もかもを捨てる覚悟をしても、あたしに結果はついてこない。結婚しようなんて言ってくれる人も現れない。あたしは、一人だ。  どうしてあたしは幸せになれないんだろう。  信号は未だに赤のままだ。待ち切れずに飛び出した一人に、クラクションが鳴らされる。あたしは辛抱強く、待ち続ける。待っているのか、動き出せずにいるのか、もうよくわからない。  甘ったるいラブソングは、まだ、止まない。
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