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優衣子の悔しさ
最近の芽衣ちゃんはちょっと焦っている気がする。
売れ筋のメロディラインに乗せられているのは、絞り出された芽衣ちゃんの叫び。
苦しくて仕方がない、何でこんなことをしているんだろう、っていう、叫び。
痛々しくて聞いていられないのは、きっとあたしだけではないんだろう。次第に減っていく拍手の数が、全てを物語っていた。
「それはね、わざとなの」
ぱちん、ぱちん、といつものように深爪しながら、芽衣ちゃんは言う。
「誰もが共感できるような歌詞っていうのはありふれているし、そういうのに飽き飽きしている層って少なくないと思うのね。だから、敢えて、マイナスの感情でインパクトを与えようって」
あたしはなんだか胸が痛かった。
「最初は聞いていられなくても、忘れられなくて、そのうち癖になってくると思うの。あたしはそういう路線を狙ってる」
「路線、って」
「やりたいことだけやってても上手くいかないからね」
「芽衣ちゃんは、それでいいの?」
「……」
「それで芽衣ちゃんは、幸せなの?」
「歌いたい歌なんて、プロになってからいくらでも歌える。まずは、歌い続けていくための環境を作らないとだめなの。あんたは結婚してくれる彼氏がいるからいいだろうけど、あたしにはこれしかないの。今更就職しようにも、何のスキルも経験もないし、後戻りできないの」
芽衣ちゃんには、才能がある。
あたしが欲しくて仕方がなくって、だけど得られなかった、才能がある。いつかは結果がついてくるってあたしは信じてる。
だけど無責任に言い放てるほど、あたしは何も持っていない。
それが、たまらなく、悔しい。
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