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プロローグ
七十七年前、原因不明の大津波で地球の九割が海となった。残された一割の陸地に島国日本があるのは奇跡と言わざるを得ない。
だが助かったと言っていいかは難しいところだ。なにしろ人も建築物も動植物も、ありとあらゆるものが津波のみこまれ水没したのだ。東京タワーはメインデッキから上だけが水面から顔を出し、それより背の低い家やビルは全て消え去った。
かつてコンクリートジャングルと呼ばれた直線的な都市は見る影もない。
生き残ったことを喜ぶべきかも分からなくなってきたころ、人類に再び奇跡が起きた。
「永田町に『貸し魔法屋』が出たって」
「聞いた! 国会議事堂だけ元通りになったんでしょ!?」
滅びるのを待つだけと思われた日本で突如復興する場所がある。それも建物だけでなく、海に呑み込まれた陸地ごと浮上するのだ。
まるでそこだけ津波など無かったかのようになるのだが、これを成すのが『貸し魔法屋』という男らしい。シャンパンの髪にローズレッドの瞳。ボルドーのたっぷりとしたコートに身体を隠し、腰にはアンティーク風の天球儀をぶら下げているという。
男はふらりと現れては人々に魔法を貸して与え、そしてどこかへ消えていく。その正体が何なのかは分からないが、日本は魔法という得体のしれない力に頼ってかつての栄光を取り戻そうとしていた。
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