天意を読み取る実験

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天意を読み取る実験

人生の大きな分かれ道から、日々の小さな葛藤まで。今の自分は、過去の選択の積み重ねでできている。これからも幾多の選択をすることだろうが、できることなら正解を選び取りたい。 「ド牡牛座」の私の場合は、本能に従うことで正解に近づく。 鏡リュウジ氏の著書『牡牛座の君へ』で示されていたことだが、それが一番後悔せず満たされる選択であることは、これまでにも何度か検証している。 選択肢の中から正解を取りたいとき、私が試すもうひとつの方法がある。 できるだけエゴを消し、耳を澄ますようにして、「流れ」を読む。つまり――天意を汲む、みたいなこと。 これは私にとって、本能に従うことと同じかもしれない。 本能というと欲望の塊のように思われるのかもしれないが、私の場合はむしろ逆だ。エゴ、雑念、煩悩、執着、あるいは理性――そういったものをできるだけ削ぎ落した心。それが私にとっての本能。 そうして現れた心――本能をなぞり、どうしたいかを読み取る。やはり私にとっては「天意を汲む」と同じことのようだ。   * 先日スーパーで買い物をしていたとき、実験をするのに良い機会が訪れた。 その日私は、バーボンの「ジムビーム」を買う予定で、お酒エリアのいつもの棚へ向かった。――が、しかし。ジムビームはそこに1本もなかった。 いつもはここに必ずあるのに。売り切れた? いや、商品の札がない。そもそも今日は置いてないんだ。もしかして取り扱いをやめてしまったのか? 棚の前であれこれ考えていると、ジムビームによく似たデザインのボトルが目に入った。 「ジムビーム……アップル?」 初めましてである。 ジムビームアップル。なんとなく、甘そう。 食事のときに甘い酒は飲みたくない。 しかしいつものジムビームはない。 どうしたものかと考えあぐねる。 「まあ、別に何が何でも今日ほしいわけでもないし」 私はジムビームをあきらめ、その場を離れることにした。 だがしかし。 棚の裏側を歩いていたとき、視界のすみに一瞬ジムビームのボトルが見えた。まさかと思って近づいてみると、いつもの棚の裏側にジムビームが陳列されていた。 なんだここにあったのか、とボトルに手を掛けようとして―― 「待てよ」 手を引っ込める。 私はその棚から一度離れて、考えることにした。 これはどっちを買うのが正解なのか、と。 実験開始である。 エゴをできるだけ消した上で、どうすべきかを読み取ろうとする。 しかしエゴを消しすぎると「どっちも買わずに帰れ」となりそうなので、ちょっとだけエゴを残して、考える。 いつもあるはずの棚に、ジムビームはなかった。代わりにその場所にあったのは、ジムビームアップルだった。「いつものじゃないと嫌だ!」と思うのはエゴである。――これはつまり「ジムビームアップルを選びなさい」ということか? そして「今日は買うのをやめよう」と決めたあとで、ジムビームが現れた。――タイミングがずれている。これはきっと、「ジムビームは買うな」ということに違いない。 この日私は、ジムビームアップルを買うことにした。そういう天意だと判断してみた。 さあて、この実験はどういう結果になるか。 私が選んだものは、正解だったのか。 ワクワクしながら、数日後に開栓。 詳細はこの前の日記(※)に書いたとおりである。 (大変気に入りました) 今回はどうやら、うまく天意を読み取れたということなのだろう。 ※「日曜日の楽しみ」(『牡牛座日記 体の調子を整える』より)
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