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楽園の記憶〜快に転ずる〜
意識が、「快」に転じた。
何かいいこと起こりそうな、南国にでもいるような、ウキウキ、ワクワク、清々しさに満たされる。
ただのウキウキワクワクではない。
圧倒的な、幸福感。
「楽園の記憶」だ。
「楽園の記憶」が、浮上しているのだ。
信じられないことに、これが何日にも渡って頻繁に私を襲う。そして一回一回がたっぷりと長め。いつもなら、ごくたまに唐突に浮上して、一瞬で私をしあわせな気分にし、一瞬でまたどこかへ行ってしまうのに。
だからこそ、今がチャンス。私の意識を「快」に転じさせたきっかけを整理し、「楽園の記憶」の正体を、突き止めたい。
*
最初のきっかけは恐らく、10月下旬から始めた部屋の模様替えだと思う。クローゼットと押し入れを整理し、家具を減らし、床の見える範囲が広くなり、布団の向きも変えた。
これがとても、うまくハマったと思う。
今までちょっとずつ感じていた家具の配置の「こうじゃないんだよな」を、全部解消させた。だから部屋にいること、行くことが、明らかに楽しくなった。とても快適である。
いまや私の部屋は、小さな楽園。
そしてさらに小さい楽園は、布団の中である。
向きを変えたのが良かったのか、布団に入ったときに見える景色や、横になってちょっと書き物をするときのライトの位置など、機能的にもうまくハマった感がある。だから毎晩、これから寝るというのにウキウキしてしまう。
部屋にしろ布団にしろ、そこに行けばウキウキするという場が、まずは整った。
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それから、10月に姉夫婦と会えたこと。これもとても嬉しい出来事。
コロナ禍に父が他界し、他県の姉夫婦は臨終にも葬儀にも駆けつけることができなかった。だけどようやくお互いの県の新規感染者数がゼロ続きとなり、「今しかない!」と再会を果たすことができた。
父も会いたかったことだろう。
私と母も、ようやく肩の荷が下りた。
これで心が軽くなり、清々しい日々を迎えたわけだ。
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次のきっかけは、「しいたけ占い」でのしいたけ.さんの言葉。――心配事を書いておくと、想定内と思って動けるから大丈夫云々、と。この言葉ひとつで、私に化学反応のようなものが起こった。
まず思い出したのが、以前テレビで見た、アメリカにいる日本人スーパードクターがやっていたこと。手術の前に、思いつく限りのイメトレをしておくのだ。だから実際に手術を行うときは、すでに「二度目」。トラブルが起ころうが常に冷静沈着で、すぐに対処できる。
私はわりと、準備していないことに弱い。だからイベントスタッフをするときなどは、事前準備や知識を入れておくことに必死になる。普段の生活でも、突然時間ができると頭が真っ白になり、何をすべきか考え、結局動けずに終わってしまったりする。
それに私はメモ魔である。エプロンのポケットにはいつもメモ帳とペンを入れて、買い物や用足しを思い出したらすぐにメモ。書き物のネタや言葉が湧いてきたときもすぐにメモをしていた。
心配性でメモ魔の私に、しいたけ.さんの「心配事を書いておくと想定内と思って動ける」という言葉は、吸い付くようにピタッと私にハマった。
これからは今まで以上に、もっともっとメモしてみよう。心配事も、家事に関することも、どんな些細なことでもいい。「あれやっておかなきゃ」と思いついたことは、全部書き留めてみよう。
私のメモ魔な性分を、母は少々心配そうに見ていることがあるが構うものか。遠慮してどうする。私にとってはそれが、安心感や清々しさに繋がるのだから。
私の中で、書くことへのタガが外れた。その瞬間、ステージが上がったような、霧が晴れたような、世界が輝いて見えるような――そんな感覚に襲われた。
メモ帳のフル活用。実際にやってみると、これもとてもうまくハマった。
今まで「さて何をしようか」と考えている間止まっていた歯車が、だんだんと回り始めた。
小さなことでも、メモしていたことをこなしてチェックボックスを埋めていくと、達成感が生まれる。考え込むことは減り、庭へ出たら「そうだアレをしよう」、風呂場へ行ったら「そうだついでにアレもしとこう」と、頭も活発になってきた。
それに何より、心に浮かんだことをすぐに書き留めていくこと自体に、私は不思議と嬉しさを覚える。紙やペンの感触も、指に心地良い。
こういうときいつも、親友の言葉を思い出す。
――和珪ちゃんは「書呼吸かこきゅう」なんだよ。「呼吸するように書く」じゃなくて、「書くことが呼吸」なの。ちゃんと息して。書かないと窒息しちゃうよ。
今の私は、新鮮な酸素をめいっぱい取り入れている気分だ。
*
これらのことを積み重ねていった結果が、私の意識を「快」に転じさせたのだろうか。実際のところはわからない。だけどそのひとつひとつが、私にとっては間違いなく心地良いこと。
ウキウキが定着する。
日常の何気ないことにもウキウキする。
愛犬との散歩。
西の空に広がる夕焼け。
夕食に母と発泡酒を1缶飲むことだけでもウキウキする。まるでどこか外国の居心地良い酒場でワイワイ楽しく飲むみたいで。
「楽園の記憶」の発動条件は、まず場と自分を心地良さで整えることなのかもしれない。でもそれって、よくよく考えたら『牡牛座の君へ』でとっくに言われていたことだった。
今朝も我が家は、井戸の蛇口が凍結したし、畑も霜で真っ白だった。いつでも自由に「楽園の記憶」を呼び起こせるようになれたなら、真冬の寒さでも、南国気分でウキウキ楽しくすごせるかもしれない。
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