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長い目で見たら、あれはグッジョブだった
ステロイドを服用するようになってから、10年以上、皮膚科へ通院している。皮膚科の先生は2~3年で入れ替わるが、熱心な先生もいれば、そうでない先生もいる。
去年の春から担当になった先生は、私の見たところ「そうでない方」の先生である。
「最近はどうでしたか?」
「痛みもなく元気でした」
「そうですかー」
と話を聞いて終わり。
その目で私の体を確認してはくれない。
でもまあ、症状が落ち着いている今は、こういうあっさりな先生でもいいだろう。
満足ではないが、不足でもない。
夏頃になると、頭皮がチクチクしてきた。
これは私にとってはわりと毎年恒例な症状。
暑さで頭が蒸れて、毛穴が軽く炎症を起こすのだ。
先生に伝えると
「あー、わかりますー」
と共感してみせて、
「涼しくなれば治りますから、清潔にしといてください。かゆみがなければ大丈夫です」
で終わった。
以前の皮膚科の先生なら、頭皮用の薬を出してくれたのだが。まぁいい。今年は今年だ、と割り切ることにする。かゆみもないし。
たしかに涼しくなって、症状は落ち着きを見せた。が、それは一時的なことだったらしく、10月頃にはまた症状が出てきた。
シャンプーを無添加系に替えたりとあれこれ試みたが、やっぱり薬はほしかったかもしれない。
先生には言わなかった。
これ以上ひどくなれば言うが、現状では言ったところで何もしないだろう。かゆみもないし。
そうやって秋が終わる頃には、頭皮のチクチクも木枯らしに乗って消えていた。
*
年が明け、「成人の日」から数日後。
髪を切りに訪れた行きつけの美容院で、衝撃的なことを言われた。
「ねぇ、ここんとこ髪短いんだけど。もしかしたら脱毛の跡かもしれない」
「えっ!?」
「あ、こっちも短い」
「ええっ!?」
脱毛――
姉がバリキャリだった20代の頃、やはり美容師さんから円形脱毛症をやんわりと指摘されたことがあった。ハードワークが原因であろうことは、当時姉と同居していた私の目からも容易に想像できた。
しかし私が脱毛とは解せぬ。
ものすごく穏やかでマイペースな田舎暮らしをしているというのに。何をどうしたら脱毛するようなストレスが生まれるのか。
「もう治って髪伸びてきてるから大丈夫だよ。――そうだねぇ、この長さだと、3~4ヶ月くらいかなぁ。半年はないね。その頃何かあった?」
その時期、心当たりといったらアレしかない。
頭皮チクチク現象である。
去年は特にチクチクしていた期間が例年より長く、何ヶ月にも及んだ。
去年に限らず、暑い時期、私は頭にタオルを巻いている。だけど去年に限ったことで考えると、猛烈に草刈りや草燃やしに勤しんだことが挙げられる。頭にタオルを巻いて、汗をダラダラ流し、髪の毛は全部中に入れていた。
もちろんタオルはまめに替えているし、1日の終わりにはシャンプーもしている。昼間のうちは頭皮の蒸れをドライヤーで乾燥させていた。
しかしそれ以上に毎日汗だくで、脱毛したエリアはタオルや帽子のラインとかぶっていなくもない。
それに秋頃にはたしか、頭皮を押すと、チクチクとは違う痛みがちょっとあった。
その場所がたしか、脱毛跡と同じあたり。
「でも気付かなくて良かったかもね」
美容師さんが明るく言い放つ。
「あくまで私の個人的な見解だけど。脱毛した場合、心配になって病院に行くよりも、気にしないでほっといた方が治りが早いよ」
たしかに、薬が合わないこともあるだろうし、気に病みすぎてかえってストレスになり、治りが遅れることもあるだろう。
異変は感じていたが、脱毛に気付かなかったことは不幸中の幸いと言える。
――ということは、だ。
数ヶ月前の皮膚科診察で、先生が私の頭皮を確認しなかったこと、それと私がその後も治らない旨を伝えなかったこと。あれは結果的にグッジョブだったということだ。
そのときはうまくないと思ったことも、長い目で見ると福へ転じることもある。
人生とはわからんものよ。
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