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― プロローグ ―
「嘘じゃない」って、
一度でいいから言って欲しかった。
18歳で東京に出てきた世間知らずな田舎娘、うたこ。
叶えたい夢があったわけでもないし、大きな野望を抱いていたわけでもない。
だけどきっと、飛び出さずにはいられなかった。
中途半端な摂食障害によって体は痩せていたけれど、衝動性が強く、無駄に行動力がある。
親は、機嫌が良い時は彼女を可愛がり、そうでない時は正反対な扱いをしたので、精神的にも不安定であった。
自己肯定感は地の底以下で、小1の頃から自傷を繰り返し、自分に存在価値を見出だすことが出来ずに藻掻き苦しむ日々。
生真面目で謙虚な自分と、気性の荒い獣の間を行ったり来たり。
しかし、運は良かった。
生まれつき元々の骨格や容姿には恵まれていたようで、雪のように白い肌を持ち、小さな顔にはくっきりとした二重の黒目がちな瞳と、バランスのとれた位置にくっついた鼻、形の良い赤みがかった唇を持っている。
そうしてそれらは、18歳らしく、オンナ、と言う性別に見合うように上手いこと成長した。
まつ毛は、幼い頃にストレスから自分で抜いてしまい、つけまつ毛とマスカラが手放せなかったが、それでも化粧で顔を作れば、それなりに可愛らしく見える。
それを理由に大目に見てもらえるのは、ありがたいことだった。
それと同時に、だからこその危険と隣り合わせでもあった。
中身は空っぽだった。
生きている理由がいつもわからなかった。
死にたい、と、泣き叫び暴れることが良くあった。
時々、自分に命があり、思考があり、感情があることに対して、恨み、絶望し、発狂しそうになってしまう。
そんな少女は、19歳になった頃に少しばかり欲をかく。
自分の唯一の存在理由は、昔から「褒められること」だけだった。
「私、彼に、もっともっと褒められたい」
そして出来れば、ー 。
私のこと、好き?
私が1番?
私でしか、イカない?
それは、嘘じゃないよね?
ねえ、私。
「嘘じゃない」って、一度でいいから言って欲しかった。
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表紙作品・hot5.(ほとら。)様より。
Instagram→@hot5.lirio
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