死ぬまで遊んで

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死ぬまで遊んで

「…寝る、かも…」 「ああ、俺ももう寝るから、先に寝てろな」 「睡姦して下さい」 「何言ってんのおまえ、つまんないだろそれ」 「…つまんないんだ」 「起きたらな」 「うん、仕事行く前に、も、一回、して…、じゃないと、私行かない…」 「お、いいんじゃない、うた。自由っぽくって」 「…言ってみたかっただけです。無理なら、いいですから、ね」 呂律が回っていないし、言っていることもおかしいし、ここいらでやめておかなくては。 片手に充電のたまったスマホを握っていたので、黄色い長い枕に横向きに寝転がって、幾つかのやりとりをしていたラインに、今から忙しくなるのでまた後で返事します、と返す。 ラリってる時に誰かと連絡を取ったりするとろくなことにならないから、後は起きてからだ。 中村さんは、深緑色のクッションに戻ると、誰かに電話をかけている。 その猫背な後ろ姿をぼんやりと眺めながら、意識が失われて行くのを待つ。 彼の声が私の子守歌で、でもその歌を歌ってあげている相手は、どうやらナナさんのようだった。 厳しい音でもないし、非難するような音でもないけれど、本物の温かみは含んでいない、そんな声だ。 それどころか、少しばかり冷たいように感じてしまうのは気のせいだろうか。 わかんない、私の勘違いかもしれない、中村さんが怒ったりキレたりしたところ、見たことないし。 「お疲れ、ナナ。今日、出勤しなくていいよ。…いや、おまえ元々出勤日じゃないだろ、今日。…レギュラー出勤は、なりたいって言ったからって、すぐになれるわけじゃないんだよ。誰か指名客と同伴して来られるか?だったら、出勤でもいいけど。あと、何だ、あれ。あの言いようは。ナナは何だ、何がしたいんだ。まともに働けてないだろ、いつも。ヒロトいるか?かわれるか?」 …淡々と話しているだけで、元気づけたり、良いところを褒めたりするようなこともない。 ああ、なんかちょっと気になるけれど、眠たい、眠たいこの一瞬を逃すと、眠剤は追加しないと眠れない状態になってしまう。 うつらうつらしたまま、どの辺りまでなら聞けるだろう、って言うか聞いても良いのだろうか、私が。 「…お疲れ、ヒロト。ナナが望んでること、叶えさせてやりたいとかないの、おまえは。言いなりになって、好き勝手やらせてる方が、どんどんナナはダメになるぞ。…そこで喧嘩するな。そっちで喧嘩されても、俺入れないから、どうもしてやれないし。とにかく、ナナはもう、次の一カ月様子見で、ダメだったら辞めてもらうしかないんだよ。キャストの募集もかけてるし。別に整形しろとか痩せろとか無理言ってるわけじゃないだろ。出来ることをやれって言ってるだけなんだけど」 そうかあ、庇ってる、のかな? なんとかしてやりたい、って思ってるのかな? 二人が付き合ってるの、秘密にしてあげてるんだよね、中村さんは。 じゃあ、優しいのかなあ、でも管理もしろって言ってるってことは、やっぱりそうじゃないのかなあ。 うーん、ごめんナナさん、私に出来ることは相談に乗ることくらいで、しかもそれも正解じゃない場合が多そう。 自分で自分のやり方見つけて行くしかないんだよ、ごめんね。 一カ月、か…秋になったら、ナナさんはもういないのかなあ、そうしたらユウコさんも辞めちゃうよね。 せっかくラインの交換とかして、待機席でお喋りもしたのになあ。 ミサは戻って来てるかなあ、だといいなあ、また遊びたいなあ、約束だってしてたし、面白いところ連れてってくれるって。 「…ナナは、向いてないよ。多分、本当はな。でも、頑張りたいんだろ、やる気があるんだろ。ヒロトは、辞めて欲しいのかもしれないけど、そしたらナナはヒロトともう一緒にいるのやめるんじゃないか。いや、ナナに聞くなよ。喧嘩になるから。今のナナは、レギュラーにはしてやれないよ。ヒロト、一人の時に連絡して来い、おまえは。ナナも、ヒロトといる時はラインにしろ。おまえのライン、意味わかんないけどな。何度も言ってるけど、店では仕事をしろ。仕事出来てないキャストに給料払い続けるわけにはいかないんだよ。…それと…」 担当の仕事って大変なんだな、ナナさんは確かに待機席にいることが多いし、フリー客に営業ラインを送っているような素振りも見かけない。 いきなり金持ちがやって来て自分を見初めて、指名してシャンパンを入れまくってくれる、なんて、そんなことを夢見ているわけではないだろうけれど。 『営業を一生懸命やるといいですよ、手作りのご飯の写メを送るとか、今日のお化粧どう思いますか、とか、相手に気に入られたいと思っている女のコのフリをするんです。出来れば、毎日、頻繁に。ただ、迷惑になりそうな時間帯は避けるんですよ』 と、完全に眠ってしまう前に、なんとかラインを打つと、ナナさんに送信した。 そのタイミングで、中村さんはスマホで電話をかけたまま、布団に入っている私の横に移動して来ると、向かい合わせになる形で横たわった。 肘をついて、頭だけ浮かしてスマホを耳にあてているけれど、あいている方の手のひらで私の髪を一房取ると、くるくると弄んだ。 もう話は聞いていなかったので、彼の胸元に寄って行って額と鼻先をくっつけて瞼を完全に閉じた。 夢も見なかった。 いや、夢と言うものは必ず見ているものだと、いつか何かで読んだことがあったので、見てはいたのだろうけれど、全く覚えていなかった。 泥のように眠った、と言うやつなのだと思う。 それはそうだ、店で物凄く酒を飲んだ後で、再びミサやミズキさんと共に慣れない場所に出かけて、思わぬことが沢山起きて、何よりさらに酒を飲んだ。 脳は、オーバーヒートしていたのだろう、体だって、思っていたよりは疲れていたのかもしれない。 眠りについたのは10時くらいだったと思うのだが、目が覚めたのは16時前だった。 多分、もう店に向かわなければならないはずの中村さんが、私の背中にぴったりとくっついていて、腰に腕をまわしていた。 手で、腰骨をわしづかみにされていて、彼の下半身に押し付けられる形で固定されていて、耳元で私の名を呼んでいた。 「…ん、はい、…起き、ました…中村、さん?」 「うた、大丈夫?」 「何、が?…んあ、っ、…えっ、あ、や…」 「店、来いな、待ってるから」 自分でもわかるほどに、恥ずかしくなるくらいに、私の体は彼を易々と受け入れる為に濡れてふやけきっていた。 何も準備はされていないのに、下着をずり下げられた時に、太ももを液体が伝う感触を感じて、彼が私の表情を見ることは出来ないとわかっているのに思わず俯いてしまう。 そこにあてがわれたものが何なのかを理解すると、横になって眠っていたので、奥まで挿入しやすいように上に来ていた左脚だけを折って胸の前で抱える。 「は、あ、…んっ、私が、…っ、言った、から…?」 「違う、したくなっただけ」 「でも、時間…っ、あっ!やあ…っ!」 中をあったかくて硬いもので埋め尽くされると、気持ちが良すぎて思考する力が散って行ってしまう。 遅刻、しちゃうよ、中村さんが、怒られちゃうよ、マネージャーなのに。 私が、あんなこと言ったから?だからしてくれるの?頑張らせる為に、自分が遅刻してもいいって、思ってくれてるの? 全てがピタリと内部に収まりきって、内壁を激しく擦りだすので、私はそこで何もかも考えるのをやめざるをえない。 弓なりに反る背中、突き出す形になる尻をガクガクと自分勝手に扱われ、私はそれがたまらなくて、顎を上げると紡ぎずらい嬌声を短く吐き続ける。 何だこれ、すっごい気持ちいいよ、どうしよう。 私は中村さんの好きなように抱かれるのが一番好きだから、少ししか残されていない時間で手短に、乱暴に、忙しなく行われるそんな行為に酔いしれた。 ああ、頑張ろう、こうして欲しいから、私のことを適当に抱いてもいいの、中村さんは。 愛撫のない、ただ挿入して、中をめちゃくちゃに掻き混ぜられて、穿たれて、抉られる。 愛してるもなしで、意味なんてなくて、すぐに終わらせることだけを考えてる、そう言う抱き方だと言うのに、そうだと知っているのに、雑に扱われるのってこんなに心地良い。 快楽にのまれて、掠れた声で意味のわからないことを言って、カラカラに喉が渇いていることを知る。 「…、うた、どっちが、いい」 「あ、んあ、なか、…あうっ、…中に、して…っ、」 「…、そか」 「んうっ、おく…っ、や…やあ、あ…」 「…ふ、」 「おなか、なか、出て、るの、…」 やだ、もう、全部、無理。 気持ちが良くて、このままがいいって思う。 私はこの人とは付き合っていないし、結婚もしないけれど、でも、いいの。 どちらかが死ぬまで一緒に遊んで欲しいの、本当は。 それが私がかける中村さんへの呪いのようなもので、叶うのは私の方だけでいい。 私の下半身を動かしていた手が離れ、首に回されると、項に口づけされる。 ズルリと引き抜かれるのに合わせて、体が震え、私は自分のお腹の下の方に手をやって、なんとなく撫でた。 お腹いっぱい、満足しなよ、いい加減に、私。 いつになったら、私は何もかもの空虚感とか、自分の無力感とかに苛まれ続けるのをやめることが出来るのだろうと、いつも足掻いていた。 それをやめる日は死ぬ日なのだろうと、ずっとずっと思って来たけれど、もしかしたら他にも方法があるのかもしれない、と、ちょっとだけ期待する。 長く触れていた彼の唇から吐かれた吐息は熱くて、約束だからとっとと終わらせなければと思ってしてやった行為にしては人間味を感じて、私は素直に喜んだ。 本当に、ただ、したくなったから? だったらいいな。 私なんかの体でもさ、彼が抱きたいと思うように出来てるってだけで。 私は女に生まれて来たことも、悪くないなあって思えるんだよ。
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