ミサの彼氏の正体

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ミサの彼氏の正体

「どんな人なの?ミサの彼氏って、どんなとこが好きなの?」 「聞いてくれるのー!なんか彼氏いないコに惚気とか悪いかなって思っちゃってうたちゃんに言えなかったんだ」 「そんなの全然気にしないよ。ミサが嬉しいなら、私も嬉しいよ」 「ありがとー!!彼氏ね、バンドやってる人なんだ」 バンド。来た。これ。バンドマンてやつ。 ミサ、もしかしたら私は、ミサの恋を止めるかもしれない。 いやでも中にはまっとうなバンドマンもいるかもしれない。 私が知っているバンドマンたちが、たまたまろくでもなかったと言うただそれだけで決めつけるのは良くない。 ろくでもないと言うかなんと言うか、人間的にはいいやつばかりだったけれど、他に色々と問題があったと言うか。 ミサの話をもう少し詳しく、きちんと先まで聞いてみようと思って、私はニコニコしながら相槌を打つ。 しかしどうしたもんだろう、とも頭の隅に置きつつ。 …恋、恋、恋は。 人様の恋路なのだから。 どうにも、出来やしないけれど。 実は私は18歳の時、半年ほどの退学をするまでの間だけなのだけれど、専門学校でバンドマンとやらに囲まれて生活をしていた。 何故か知らないが、やたらといたのだ。 バンドマンや、弾き語り男子や弾き語り女子や、ライブハウスでpa見習いをしている、なんて子達が。 先生まで、音楽に携わる職種が本業である人が多くいたので、そんな生徒たちを優しく見守ってくれた。 そんな学校だったのだ。 その半年間の間、必然的に私の友人になってくれる人間と言えば、バンドマンか、バンドをやりたいと言う意志を持つ人間か、バンドマンか、バンドマンを目指している男のことを好む女のコが多かった。 そこに半年間いたので、様々なバンドマンやバンドマンを目指している男性、そして彼らに好意を寄せる女のコたちを見て来た。 いやでも、だからと言って、私のただの偏見だろう。 バンドマンの男性が、自分に好意を寄せる女のコを利用するのに心を痛めないなどと言うのは。 そんなやつが多かっただけで、みんながみんなそうではなかったはずだ。 そう思い直して、ミサに話の続きを促した。 「じゃあ、夢を追ってる人なんだね。ミサよりも年上なの?」 「ううん、私よりも歳下。確か三つ下だから20歳だったかな」 「年上女房じゃん。バイトとか仕事とかって何やってるの?今日、ラストまでいたのに明日平気なのかなって思って」 「あー、なんかパチ屋のホールって言ってた」 「え、じゃあどこで出会ったの?」 だってミサ、パチスロなんてやらないじゃん。 じゃあどこで出会うの?そう思って、思わず身を乗り出しそうになるのをなんとか耐えると、ビールに口をつける。 ああもう、ぬるくなっている気がする。 ゴクゴクと飲んでいると、ミサは梅酒の入っているグラスを両手の平で包み込んで、えへへ、と言いにくそうに、それでも正直に私に話してくれる。 「アフターでお客さんとよく行くカラオケ屋でバイトしてて」 「パチ屋のホールじゃなかった?」 「ううん、初めて会った時はカラオケ屋のバイトくんだったの~」 「なるほど」 「そこで、この子いいなって思っててえ…」 「ミサから好きになったんだ」 「そうそうー。一生懸命働いてたから!あと、ちょっと長い、銀色の髪を後ろで高く結んでて」 「ふうん?」 「私、その子の長い、綺麗な色の髪が印象にすごく残ってて…」 「見た目から入ったってこと?」 「まあ、そうなる、かな?」 へへ、っと照れて答えるミサは、なんだか恥ずかしい、簡単なきっかけでごめんね、と言いたげな、困った顔をした。 そうなんだ、ミサって髪が長い男が好きだったのか。 違うかも、今まで関わったことのない人種が珍しくて、良さそうに見えたのかも。 それは別にいい、個人の趣味だし好みだし出会いは色々だ。 見た目、第一印象、から好意を持つ、なんて良くあることでもあるわけで。 でも三か月前はカラオケ屋でバイトをしていたのに、今は辞めてパチンコ屋のホールをしている、とミサが「彼がそう言っていた」と言う様な口ぶりで言った。 と、言うことは、もしかしたら事実はそうじゃないかもしれない。 実際は、違うかもしれない。 失礼だけれど、彼はミサに嘘をついている可能性があるのではないかと思った。 いやだからさ、私! 私、ミサの彼氏に一度も会ったことないのに、めちゃくちゃ悪い嫌なやつにしようとしてるじゃん。 良くないってば、こういうのは先入観ってやつだ。 偏見ってやつでしかない、本当にやめなくては。 そう自分を落ち着かせると、ビールを最後まで飲み干す。 ミサも梅酒を口に運ぶと、コクコクと喉を潤している。 彼のことが本当に好き、って言う、そういう顔をして、うっとりとした様子で。 そうか、そんなにか、そうだよな。 長い片思いがやっと実って、今は付き合い立ての初々しいカップルなのだろう。 んん、この年で初々しいってことはないと思うけれど、それでもミサにとっては大事な大事な彼氏なのだ。 今のところ私の中での印象は悪いけれど、会ってみたりしたら案外いい人だったりするのかもしれない。 勝手に悪い方にばかり当て嵌めて、良くない、だなんて思ってはいけない。 ミサだってちゃんとオトナの女性なのだから、まあ、そりゃあコドモっぽいところや、飲み過ぎてヤバイやつになってしまうこともあるし、私と同じようにあまり自分のことを客観視出来るようなタイプには見えないけれど、それでも一人で東京で生きている。 ミサの出身地は確か東北だと言っていたし、もしかしたら東京に出て来たばかりの頃は普通の大学生とか短大生とかだったのかもしれない。 どうして東京に出て来たのかは知らないけれど、何か目標があってのことではあったのだと思う。 一応私だって、「専門学校に通う」と言って、出て来たのだし。 あっさりと退学してしまったとは言え、一応はじめは目的があったのだ。 何にせよ、若い女が東京で一人暮らしをして生きて行くのは、とてもとても大変なことだと思うのだ。 身をもって感じる時が多々ある。 あまりのしんどさに潰されてしまいそうになることだって沢山ある。 そりゃあ、もちろん男だってそうだろうけれど。 つまりミサの彼氏はバンドマンになりたくて、バンドで食って行くって言う夢を叶えたくて東京に出て来た若者、と言う認識で合っているのだろうか? 合っていると、お願いだから誰かうなずいて。
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