もっと近くで

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もっと近くで

店とか、仕事とか、関係のない話をして、少しだけマネージャーの価値観を知れて、そんなことが嬉しく思えて、胸がいっぱいだった。 通話を切る時に、マネージャーが「おやすみ、うたこ」と言ってくれた。 私はその言葉を、もっと近くで聞けたらな、なんて思って、自分の乙女思考が少し疎ましいと感じた。 だって、大人っぽくない。 マネージャーは、大人なのに。 これじゃあ、全然似合わない。 マネージャーの側で、マネージャーとああして、電話じゃなくて、話せたりしないだろうか。 いつか、頑張っていたら、そんな日が来ないだろうか。 『おやすみ、うたこ』って、側で聞いてみたい。 私は中学、高校とそれなりに恋愛経験が、と言うよりかは男性経験はあったはずだが、東京に出て来てからは、誰かに恋愛感情を持つことはなかった。 付き合うことがあっても、好きではなかった。 誰のことも好きにならなかった。 寝たとしても、それは好きだったからではなくて、しょうがなくだった。 側にいてもらう為に、仕方なくだ。 私はずっとそうだった。 多分、19歳まで、この店でマネージャーのことを好きになるまで、私は「男性を恋愛感情で好きになった」ことが少なかったのではないだろうかと思う。 夢見る乙女のようになってしまった自分に、冷静な方の自分が「やめておいた方が良い」と言う。 けれど、本当の気持ちの方ももちろん捨てられない。 どっちつかずの気持ちで、私は結局「自分の都合の良い方」にする、と言う結論を出した。 私はマネージャーのことが、好きかもしれない。 だから頑張れる、だからNo上位にも入る、褒めてもらう為に。 そうしたら私は嬉しいし、さらにマネージャーに何か他のものを求めて、期待をするだろう。 それはダメなことかな? ミサのように、私も傷つくかもしれないけれど、それでも夢中になって尽くしてしまったりするのかな? 私は、本当の恋をしてみたかった。 これが、もしかしたらそうなのかな、と思ってしまったのだ。
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