No.2

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No.2

店を上がって部屋へと帰り、朝まで起きている。 朝の7時くらいになったら、指名客や、連絡先を交換したフリー客へとラインを送る。 「おはようございます。今日もお仕事頑張って下さい、応援してます」そんな文章に、店で話した内容や、可愛らしい絵文字をプラスして、色恋をかけている客にはそれなりに気のあるような言葉を付け足して。 同伴だって沢山したし、アフターにも誘われれば積極的に行っていた。 指名の客を何人か被らせるくらいには呼べるようになり、オーダーも出来る限り、取れるだけとった。 毎日シャンパンや値段の高いボトルを少しでも多く入れられるように頑張ったし、どんな客にも嫌がらずについた。 スマホのメモ用のアプリには、今までよりも随分と、ついた客の名前や呼び方、特徴、どんな風に接客すれば良いのか、どのような会話をしたのかが山のようにたまっていった。 そんな毎日を目まぐるしく過ごし、何度かの給料日を経験し、時が経った。 そうしてその日は突然にやって来た。 給料日と言うのは、その日が出勤予定ではないキャストのお姉さんでも、当日に受け取りたい人もいるので、結構多くの人数が店にやって来る。 店がオープンする前の時間に、ミーティング的な役割も含めて給料を受け取ることになっているので、待機席含め、その周辺のソファにそれぞれ私服のままのキャストのみんなが座っている。 部長が前に立って、今月はどうだったかと言う話や、来月からこういうことにもっと力を入れるように、なんて話を真面目にしているのを聞く。 それから、だ。 一人ずつ源氏名が呼ばれ、私たちの前に立っている部長のところへ行って、給料を受け取る。 私の名前はなかなか呼ばれない。 ハラハラとして、隣に座っているミサの表情を窺い見る。 ミサは慣れているのであろう、特に何かを気にしている風もなく、いつもと変わらずに自分の名前が呼ばれるのを待っている。 ミサの私服姿は、彼氏であるユウくんとやらと付き合いはじめてから少し変わった。 以前まではタイトな膝上までの黒や白、深い藍色のワンピースや、シンプルなブラウス、Tシャツに細身のジーンズ、そこにハイヒールなど、大人っぽい服装をしていることが多かった。 けれど今はすっかり可愛らしい、ふんわりとしたピンクや淡い水色の、レースやフリルのついたワンピース姿に、ヒールの低いパンプスが定番となっていた。 その姿も似合っていたし、私はもう以前のように、ミサにとってユウくんが「良くない彼氏」かもしれない、と思っていても、別れさせようだとか、何か助言をしようだとか、そう言う風に考えることはやめていた。 マネージャーが電話で言っていた通りだと思ったのだ。 ミサにはミサの人生があって、ミサはミサの価値観、考え方で生き抜いて、色々考えたり色々感じたりして、そうやって経験と言うものを積み重ねて行くのだろう。 私だってそうなのだ。 参考になる意見はとてもありがたいけれど、結局それを聞くのか、聞いた上でどのような結果を出すのか、選ぶのは自分でしかない。 ならば、ミサの人生に私が口を出すのはやめようと思った。 とても好きな人と共に暮らしていて、幸せそうなミサの話を聞いていたら、それで良いような気がしてしまった。 もちろん痛い目にだって合うだろう。 私だってそうだ。 そうやって大人と言うやつになって行くのだろうか、と、そんなようなことを漠然と考えていた。 「次、うたこさん、どうぞ」 「…あ!はい!」 ぼんやりとしてしまっていた。 一人のキャストのお姉さんが部長の元から席へ戻って歩いているところで、皆がパラパラと拍手をしていた。 多分、No5位までに入ったキャストのお姉さんなのだろう。 私の名前がそこでやっと呼ばれたと言うことは、それは、一応はNo上位には入っていると言うことだ。 ミサが、ニコリと私の視線に気づいて微笑みかけてくれる。 そんなミサの曇りのない笑顔に、困惑気味に笑顔を返してから、緊張しつつ立ち上がると前へと出る。 ミサが微笑んでくれた理由は、すぐにわかった。 ミサは知っていたのだろう、きっと私の頑張りを、ミサも見ていてくれたのだろう。 感じていたのだろう、と思った。 「うたこさん、No2です。おめでとうございます」 「…え?」 「頑張りましたね、こちらがお給料で、こちらは店からの特別手当です」 「特別手当、ですか?」 「お祝い分、と言うことですね」 「あ、…ありがとう、ございます!」 部長の口角が少しだけ上がる。 私に向かって笑顔を作ってくれているのがわかった。 パラパラとNo3だったキャストのお姉さんが呼ばれた時のように、適当な拍手が店内に響く。 私は、初めてNo上位入りを果たした。 しかも、No2だ。 この店で。 はじめて働いたキャバクラと呼ばれる夜職の店で。 それなりにキャストの人数の多い、そんなこの店で。 …嘘、じゃないの? 本当、なの? 誰か、嘘じゃないって言って。 信じられないよ。
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