褒めてくれるかな

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褒めてくれるかな

私が?本当に? こんな私が、No2に入った、そんなこと、とてもじゃないけれど信じられない。 いつもだったら、他のキャストのお姉さんとその指名客の卓でヘルプを上手にこなす役割だけを、上手だ、助かる、と褒められていただけの、Noだって入れたとしても10位から8位がせいぜいだった、そんな私が。 本当に、No3以内に、入れたの? 部長が、頑張りましたね、と言って、さらに私に笑いかけてくれた。 じゃあ、やっぱり、本当ってこと? 私はまるで夢を見ているかのような気持ちで、部長の手からお給料の入った袋と、特別手当と言われた分の封筒を受けとる。 それから、ぼんやりとしたまま、何も考えられず、フラフラと自分の座っていたミサの隣の席へと、なんとも心もとない気持ちを抱えたまま、どうにかして戻った。 だって、だって、嘘みたいで。 本当のことなのかなんて、全然わからなくて。 でも、でも、ちゃんと本当だってわかったのならば、飛び跳ねたいくらいに嬉しい。 どうやったら真実なのだと実感できるだろう? お給料の中身を数えてから? それとも明日からの出勤で、男性スタッフやキャストのお姉さんたちの態度が少しでも変わっているのを感じたら? そうしたら私は、やっと実感がわくのかな。 「ミサさん、No1です。おめでとうございます」 「はーい」 隣に座る私に、「うたちゃん、良かったね」と言うと、ミサは部長の元へと歩いて行ってしまう。 呆けたままの私の姿を見て、おかしそうにちょっと笑っていた。 ミサは、No1~No3位辺りをいつも行ったり来たりしているようなキャストだったので、不動のNo1と言うわけではなかったが、No上位であると言うことには慣れているのであろう。 全く臆する様子もなく、普通に前に出て、当たり前と言ったように部長から給料を受け取り、スタスタと私の元へと戻ってくる。 周りからの拍手にも、部長からの笑顔にも興味がない、と言う風にソファへとっとと腰掛る。 そうしてさっそく、給料の入った袋の中身をあけて、確かめ始めるのだった。 「では、皆さんお疲れ様でした。今日出勤予定になっているキャストは、出勤時間に間に合うよう店に来て下さいね」 部長がそう言うと、給料をもらいに来ただけの、本来は出勤予定ではなかったキャストのお姉さんたちは店の外へと出て行く。 少し残って、仲の良いキャストのお姉さん同士で、「ご飯食べに行く?」とか、「買い物でも行く?」なんて喋っていたりするコたちもいる。 そうだ、何せ給料が入ったばかりなのだ。 何か予定がない限り、今からパーッと遊びたい気分にもなるだろう。 ざわつく店内で、まだぼんやりとしている私に、ミサが「うたちゃん、おめでとうってばあ」と声をかけてくれて、腕を引っ張って立たせてくれる。 私は未だに呆然自失状態だ。 「着替える?それとも、同伴ある?」 「あ、えと、今日は同伴はなくて、…ミサ、ミサってすごいんだね」 「どうしたの?急に」 「私は死に物狂いでやっとだけど、ミサもずっとこうやって頑張って来たんだなあ、って思ったの」 「そんなことないよ、私、好き勝手してるって、うたちゃんだって知ってるでしょ」 「謙遜しなくていいのに」 「けんそん、ってどういう意味の言葉?」 「ふふふ、後で調べて」 二人で一緒に部長からロッカーの鍵を受け取ると、私は部長に「今日、ヘアメお願いしていいですか?」と頼み、ヘアメイクの代金を財布の中から取り出して渡す。 私は再び変身したかった。 あの日、鏡の向こう側に見た、いっぱしのキャバ嬢のような姿へと。 だって、No2だ。 No2に入ることが出来たのだ。 だったら、そう見えるようなキャストでありたかった。 なんだか自分が、やっとミサのようになれるのではないか、と言う気がした。 ミサと共にロッカールームへと着替える為に向かう途中、マネージャーに「うたこ、ちょっといいか」と私の方だけが呼び止められた。 まだ18時過ぎで、店がオープンする20時まではだいぶ時間がある。 今日は同伴がないらしいミサと二人で、着替えが済んだらオープンの時間まで待機席でお喋りを楽しもうと思っていたところだ。 周囲を見渡すと、他にも何名かのキャストのお姉さんが、担当の男性スタッフに呼ばれているようだった。 店長は、店長が担当しているキャストを連れてビップルームへ連れて行く。 部長も珍しく自分の特等席を立ち、一人のキャストのお姉さんと共にビップルームの方へと歩いて行った。 多分、成績が上がったキャストか、著しく下がったキャストか、それなりに何か重要な内容を告げる相手だったりするのだろう、と予想が出来た。 「じゃ、うたちゃん、私先に着替えて待ってるからねえ」 「うん、ミサ、後でね」 ミサと別れると、店長とその担当のキャストのお姉さんや、部長たちが使っているビップルームではない、他の空いている個室の方へ来るようにマネージャーから言われる。 私は褒めてもらえるのだろうか。 それとも、No1にはなれなかったから、もうちょっと頑張れば良かったな、と言われてしまうのだろうか。 どちらだろう。 でも私、ミサに勝つなんてのは、さすがに無理だよ、マネージャー。 私の憧れのミサ、大好きなミサ、敵うわけなんてない。 だってあれだけの指名客がいて、あれだけのオーダーを取ることが出来るのだ。 私は、ずっとミサと共にいたし、ミサのヘルプで彼女の指名客の卓についたことだって山のようにあるのだから。 ミサがどれだけ凄いのか、と言うことを、十分に知っていた。 どうか、褒めてもたえますように。 どうか、頑張ったな、偉かったな、って、また言ってもらえますように。 だって私、本当に本当に頑張ったんだよ。 今の自分が出来ること、出来る限りのこと、全部やったんだよ。 でもそうだ、これをずっと続けなければいけないんだ。 来月だって、その次の月だって、私はNo上位に入らなければいけないんだ。 維持できなければ、意味がないんだから。 「うたこ、じゃ、座って」 「はい、マネージャー。お話って、やっぱり成績のことですよね?」 「そんな構えなくてもいいから」 「でも…」 私にはソファになっている方の椅子に座るよう促し、マネージャーはテーブルを挟んだ向かい側の丸椅子に腰かける。 苦笑しながら、カチコチに緊張してしまっている私に「うたこは真面目なんだよなあ」などと言われる。 どうやら私は、マネージャーに真面目だと思われているらしい。 確かに仕事に対しての考え方は真面目ではある、かもしれない。 いやまあ、真面目だったら色恋営業に手を出したりはしないかもしれないが。 でも店への貢献度や、自分のNoを上げることを考えたら、それなりの接客術も必要な気がするので、不真面目とも言えない。 ううん、微妙。 私には、友営が出来るほどの上手い話術を使うことは難しいし、本営のように、客に自分のことを本当の彼女であると信じ込ませられるような行為もどのようにしたら良いのかわからない。 枕営業は論外だし、出来て色恋営業がギリギリと言ったところだ。 私は膝の上でぎゅ、っと拳を握ると、何て言われるのかな、と身構えつつ、それでもどこかで期待をしていた。 マネージャー、どうかお願い、私をいつものように、ううん、いつもよりもたくさん褒めて下さい。 マネージャーが、テーブルの上の灰皿を一つ取ると、煙草を吸いながら機嫌の良さそうな声音で話し出した。
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