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愛ってなあに?
走って調剤薬局まで行き、薬が沢山入った袋を受け取るとカバンに突っ込み、ミサの住んでいる部屋があると聞いていた駅へと急ぐ。
ミサはキレると手がつけられない、そのユウくんとやらを刺しかねない。
いや、さすがにそれはないだろうか、でも、もしかしたら感情の赴くままにそのくらいやってしまうかもしれない。
そういう危うさを持っている女のコだった。
ミサの元へと向かっている間に、立て続けにミサからラインが来た。
『私はこんなにあいつの為にやって来たのに』『あんな女より私が劣っているなんて』『私たちは恋人だって信じていたのに』と言うような、怒りと哀しみが詰め込まれた、そんな内容のものばかりだった。
これはやはり、かなりキレているやつだ、とわかり、なんとか脳を働かせ、対応策を練る。
ミサの住む最寄り駅に着くと、到着したことをラインで知らせ、ミサがやって来るのを待つ。
修羅場の巻き添えになって私も刺されてしまったらどうしよう。
まあ、それはそれで面白いかもしれない。
そんなことよりも、ミサをどう言って、どんな言葉でもって、冷静にさせよう。
「うたちゃーん!ありがとう!!」
「ミサ、大丈夫?」
「だいじょばない。あいつ許さない」
「部屋に、ユウくんはいるの?」
「いない、帰って来ない、寝てると思う」
「とりあえず、どっかでちゃんと座って話そう」
私は、個室の方が良いだろうと考え、駅のすぐ近くにあった、24時間営業と看板に書いてあるカラオケ店を選び、二人でその一室へと入ることにする。
部屋番号を店員から聞いたり、伝票やマイクなどを渡されている間も、ミサは次々に怨嗟の滲む声で悪態をつく。
まさかミサが、あのミサが、たかだか彼氏が浮気したくらいでこんなにも怒り狂うとは思っていなかったので、私は軽く引いた。
ミサだって、客と寝てるのに?それはどうでもいいの?と、ちょっとだけ聞いてみたかった。
部屋に着くなり、ミサは壁に取り付けてあった受話器を掴み、酒を二人分頼むとすぐに発狂した。
発狂と言うか、「ああああ!!!もうー!!!」と大きな声を上げて、ヒステリックに叫び散らかした。
それでも地団駄を踏む足は、やはりペタンコなパンプスだった。
私はどうすることも出来ず、ただ淡々と優しい言葉だけを、ミサをさらにキレさせないように、と、同様にユウくんを罵るような言葉は避けるよう気をつけながら、座るように促した。
「うたちゃん、私、幸せだったのに!!」
「うん、わかるよ、そうだね、でもさ」
「壊されたんだよ、全部!!」
「まだ、わからないよ、ちゃんと話してみて?」
「殺してやる!!」
「…待って、ミサ、なんでユウくんが浮気してると思ったの?」
「スマホが、あいつ、スマホ部屋に置きっぱなしで出かけてて」
「パスワード、よくわかったね」
「バカだから、…あいつバカだから、私の、私の、…誕生日だったのお…」
ミサは、そう、何度か声を詰まらせながら言うと、怒りで真っ赤に染まっていた目から、今度は大粒の涙をボロボロと溢れさせた。
そうか、ユウくんはもしかしたら、ミサ一本にするつもりだったのかもしれないな、となんとなく思った。
けれど、どうやらそれは、もう叶わないのかもしれない。
ミサは泣きながら、隣に座っていた私へと抱き着いて来る。
いつか、私がミサにそうしてもらったように、私もミサの背中を撫でながら「ミサは大丈夫、ミサは大丈夫」と優しく繰り返した。
「浮気だって、なんでわかったの?」
「ラインに、女と裸で寝てる、写真が来て」
「うん、でも、それって最近のやつ?」
「さっき、本当にさっき、ラインが鳴ったから勝手に見たの」
「じゃあ、今一緒にいる女からってことなのかな」
「そのラインに、あなたは本命じゃありません、って書いてあった」
「あー、ユウくんがスマホを忘れて来てるの知ってて、ミサがきっと見るだろうって思って、送ったわけか」
「その女よりも、私の方がずっと顔だっていいのに」
「…あのね、ミサ、多分だけど、ユウくんの本命はちゃんとミサだよ」
「でも、違うって書いてあった!!」
「その女は、多分ユウくんのファンで、ユウくんは本気じゃない」
「…じゃあ、私のところに、ユウくんは帰って来るの?」
「そうだと思うよ。ライン見たこと黙ってれば、ユウくんとは、また一緒にいられる」
「そう、なの?」
ミサは、ユウくんが他の女と寝ていると言う事実に対してではなく、「本命ではない」と言う言葉にあんなに激高していたのか、と、そこでやっと私は納得がいった。
いいんだ、ミサ的には、彼氏が誰と寝てても!
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