スッピンの私

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スッピンの私

少し前に夢見たことが叶ってしまった。 この時の私はもう完全に恋に恋する乙女でしかなくて、ミサの恋愛のことをアレコレ言えるような状態ではなくなっていた。 そして、私には一つ、ミサと性に関する価値観が似ているような部分もあった。 それは、好きな人が他の誰かと寝ていたとしても、全く気にならないし、気にもとめないと言うところだ。 ついでに私と来たら、好きな人に対して「自分が本命でなくても気にしない」「一緒にいられる時間があるだけでいい」と言う、まさに大昔の少女漫画の主人公のような脳ミソをしていたのだ。 まあ、元々、自分をゴミ以下みたいに考えていたので、そんな感じだったのかもしれない。 マネージャー、つまり中村さんの部屋に来て、他愛もない会話をしてビールと缶酎ハイを飲んだ。 名刺を貰って、名前を知った。 一度だけ、下の名前を呼んでみた。 嬉しかった。 そして私は、化粧落としセットと化粧ポーチを握り締めると、意を決してシャワーを借りたのだった。 この場合、女が意を決するであろうトコロが違うだろう、と言う人もいるかもしれないが、私が一大決心をして挑んだ、と言うのは「化粧を落とすこと」、これだけだった。 中村さんに、自分のスッピンを晒さなければいけない。 彼は気にしないと言ったけれど、私は自分はかなり化粧が濃い方だと思っていた。 本来のまつ毛が短くて少ないのでつけまつ毛で誤魔化していたし、眉毛は薄くて太いので形を整えて剃るとほとんどないように見える。 カラコンは保存液、容器、小さい旅行用の物を普段から持ち歩いていたので、寝る前に外すとしても。 その他の化粧全てを落とした状態で、中村さんの側で再びお酒を飲むには勇気がいった。 …せめて眉毛をかいて、アイラインだけは引こう。 そう決めて、小さな洗面所でワンピースと下着を脱いで、バスタオルが入っている細い棚の上に丸めておく。
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