痩せた胸

1/1

482人が本棚に入れています
本棚に追加
/611ページ

痩せた胸

目の前の洗面台の鏡に映る自分の裸を見て、ああ貧相だなあ、なんでこんなに胸がないのだろう、と少しばかり嘆く。 すりガラスになっている折り戸を開けて、ユニットバスではない少し広めの浴槽の内側に入ると、シャワーを出してお湯になるのを待つ。 その間、浴槽の縁に置いてある物のどれがシャンプーで、どれがボディーソープなのかを一個一個確認した。 私はガサツな方なので、ヘアメさんに頼んでやってもらったキャバ嬢らしい頭から、ヘアピンを引っかかっている髪ごとブチブチと抜いて、シャンプーの横に重ねる。 錆びないように後で拭かなくては、とそんなことを考えつつ適当に男モノのシャンプーで長い髪を泡立て、適当にボディーソープをつけたタオルで体をこすり、適当に買って来たクレンジングオイルで化粧を落とす。 続いてまた、適当に洗顔フォームで顔を泡だらけにすると、最後にシャワーで一気に頭から全部流した。 あまり時間をかけたくなかったと言うのも多少はある。 だって、中村さんが寝てしまうかもしれない。 そうしたら、もうお喋りは出来ないし、店にだって先に出勤してしまうだろう。 もしくは、私には一旦帰れと言うかもしれない。 嫌だ、出来るだけ長く一緒にいたい、と、そう思っていた。 忘れずにヘアピンを手のひらに握って、バスルームの折り戸を開けると、勝手に棚からバスタオルを拝借して髪と体を拭いた。 それからブラをつけ、さっき脱いだワンピースに着替えようとしたら、脱いでまとめておいた衣類たちを、一枚のTシャツが覆っていた。 いつの間にか中村さんが用意してくれていたのだろう。 彼のTシャツだ。 私はそれに腕を通し、広い襟刳りから頭を出す。
/611ページ

最初のコメントを投稿しよう!

482人が本棚に入れています
本棚に追加