頑張る

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頑張る

キャバ嬢らしく髪も化粧も完璧に仕上げられた私は、淡いピンク色の膝丈までの長さのドレスを纏って、ちょっと澄ましたようなポーズをとっている。 つまり、店のホームページのトップ画面。 そこには、キャスト一覧、と書かれていて何枚か、私のポーズ違いの姿も載っている。 「でも、これは加工してるから」 「うたこは可愛いよ」 「本当に?」 「ああ」 「スッピンだけど?」 「大丈夫、可愛い」 「嘘じゃない?」 「嘘じゃない」 嘘じゃない。 その言葉は、私のことを突き動かす。 頑張る方へ、元気な方へ、明るい方へ、導いてくれる。 中村さんの「嘘じゃない」は、私を泣かせたり、涙を止めたりする、そんな言葉だ。 彼は覚えているだろうか。 私がその言葉を聞いて、思わず泣いてしまったあの日のことを。 そして、再び笑顔へと変えてくれた、そんな日のことを。 それは、私が店ではじめてNo2になった日のことだ。 それからずっと、私は変わらずに頑張り続けていると言うことを。 それからずっと、変わらずに中村さんのことが好きだと言うことを。 もし、忘れちゃっててもいいよ。 私は覚えているから。 私は忘れないから。 ずっと、あなたのことを覚えているよ。 「中村さん、私も煙草吸ってもいいですか」 「いいけど、おまえ店で吸ってないよな」 「お客さんからの印象考えたら、吸わないコの方がキャラに合うかと思って」 「本当に真面目だなあ、おまえ」 「実は、すっごい、吸うんです」 「別にいいよ、俺の前では吸っても」 そう言うと、中村さんは座ったまんまで上半身を伸ばすと、はじめに私が座っていた位置に置かれていた、濃いピンクのバックを引き寄せる。 どうやら私は、このまま中村さんの真横に座っていても良いと言うことらしかった。 私もその少し大きめの深緑色のクッションの上に改めて尻を沈めると、取ってもらった自分のバックの中から煙草とライターを出す。 それから慣れたように一本口にくわえると、火をつける。 実はミサの前ですら、私は煙草を吸ったことがなかった。 店の人みんな、誰も知らない。 客だって、誰も知らない。 私が煙草を吸うってこと。 今日からは、中村さん以外は。 すう、っと吸い込んで、ふーっと吐くと、センシティブな気持ちをどっかへと逃がす。 「あ、ミサの着てるドレス、カッコイイ」 「ミサは、こういうの似合うよな」 「うん、ミサらしい感じ。私にも、似合ったらなあ」 「うたこは、今のドレスの雰囲気の方が、今だとまあ、合ってるかもな」 「そうですか?」 「まあ、好きにしたらいいと思うけど」 じゃあ、今のままでいいや。 今のドレスのままでいい。 中村さんに可愛いって言ってもらえるなら、その方がいい。 そう思って、ミサがハイヒールを履くのをやめた気持ちがはじめてわかった。 そうか、そうだね、ミサ。 好きな人には、可愛いって言われたいね。 一緒に店のホームページを見て、キャストのお姉さんたち一人一人のドレス姿やポーズ、髪型に感想なんかを言い合って、他の店のホームページなんかも見たりして、このコが可愛い、素敵だ、なんて話をする。 ぴったりくっついて、隣に座って、一緒にお酒を飲んで、煙草を吸った。 私が時々、客からのラインに返信を打つ。 そんな私のことを見て、えらいな、うたこはえらい、と中村さんが言う。 中村さん、あのね、私は、私はね。 あなたに褒めてもらう為に、こうして仕事をしてるんです。
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