奪って 💫

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奪って 💫

私とは違って、もっと大人で、ちゃんとしてる人? それとも、同じような価値観を持ってる、一緒にいて楽な人? 多分、私みたいな女は、まだ「コドモ」であって、「対象外」なんだろうな。 なんかそんな気がするよ、中村さん、ねえ、好きって言って。 「でも、私、もっと早くうまれたかった」 「なんで」 「コドモなんて、嫌だもん」 「うたこは、コドモってわけでもないけど」 「そうですか?」 「前に言ったろ。周り、大人ばっかりだからな」 「大人と一緒にいたら、オトナなんですか」 「そうなるのは、早いんじゃないの」 「じゃあ、私、別に今のままでいいのかな」 今のままがいいなら、それでいいけど、でもずっと、今みたいなのが続いたらいいのに。 でもそれは無理だ。 私は多分、「色管理」をされているだけなのだから。 ずっとNo上位入りを果たせていなければ、中村さんは私のことをすぐに「特別」から除外するだろう。 また、以前までの、ヘルプの上手いそこそこの、たまにNoの下の方に入る、その程度のキャスト、として扱うようになる。 そんなことはわかっていた、知っていた、だって私はカノジョじゃない。 中村さんの彼女って、どんな感じなんだろう? どんな風に一緒にいられるの。 今よりもずっと可愛がってもらえるようになる? それとも、その逆? 不安だったり、哀しかったり、辛かったりする? 「そんな顔すんな」 「だって無理だもん」 「そうそう、無理なんだから」 「今のままでいいです、私」 「そうしろ、うたこは、今のままでいろ」 変わるな、と中村さんは続けた。 変わるな? 私の、どこを、何を指して、そう言ったのだろうか。 私だって、年を重ねて色々な経験を積めば、何かが変わって行くのだろうと思う。 でも、中村さんは私に言い聞かせるみたいに、お願いしてるみたいに、そんな含みのある言い方して、笑った。 それから、私の髪をくしゃくしゃに撫でて、ちゃんと「大事なもの」を見るような目で私のことを見る。 懐かしくて、でももう戻らないもの、そう言う「昔、大事にしていたけれど、その時は気づけなかったもの」を、私が想って胸を焦がしている時のような、そんな目だと思った。 思わず口を開きかけると、中村さんが、そろそろ寝るか、と言って私の声を遮る。 それからは、普通に他愛もない会話を続け、一人用の布団をめくって、敷布団の上に私がはじめに転がった。 思っていたよりはフカフカだった。 ちゃんと下にはマットレスが用意されていたようで、フローリングに直接横になる感触を覚悟していた私はちょっとホッとした。 枕は、細長い抱き枕が頭のくる部分に横にしてあったので、二人で使えていいなと思った。 黄色の、でっかいバナナを模したものだったので、多分抱き枕なのだろう。 これはきっと、中村さんの趣味ではないのではないかな、となんとなく思った。 もしかしたら、黒猫のマグカップの人が買ったものかな、と頭の片隅で考えてみた。 「中村さんは、私のこと好きですか」 この時は、返答はなんでも良かった。 別に気にしないと思っていた。 自分はそういう女だと思っていた。 酔ったまんま、ヘラヘラしながら、ただの会話の中の一つ、話題提供として、その問いかけを選んでみただけだった。 何も、意図なんかなかった。 「まあ、そうだな」 「本当?」 「ああ」 「嘘じゃない?」 「どうだろうな」 中村さんは、壁際の方へもそもそと移動して、二人分のスペースを作ろうとしている私と、なんでもない会話をただ続けているだけの様子で、動揺も、困惑もしないで、たったそれだけ、幾つかの短い返事をくれた。 もう、酔ってるって言った癖に。 つれないなあ。 私が中村さんの立っている方を向いて、とりあえず寝心地の良さそうな箇所を確保した頃、彼は上に着ていたTシャツを脱ぎながら「薬飲まなくていいのか」と言う。 そうやって、もう眠る準備をしていた私に、一旦起き上がるように促す。 そうだ、薬を飲むのを忘れていた、と思うのと同時に、本当は彼が何の為に私を寝かせないでおいたのかがわかって、顔をニヤニヤさせながら、布団の真ん中に移動して正座をした。 「ふふ、薬は後でいいです」 「はい、うたこ、ばんざいして」 彼が、そんな、コドモに言うみたいな言葉をつかうから。 子供に言うみたいな声で、たまに、可愛いって私に言ってくれる時みたいなトーンで言ったりするから。 なんだか中村さんのことが私にも可愛く思えて、大人の人なのにごめんなさい、って、そんなことが可笑しくて、とうとう声を出して笑ってしまった。 そんな子供な私は言われた通りに両腕をあげて、彼にされるがまま、纏っていたTシャツとはさよならをした。 お互い上半身裸になると、抱きしめられて、ピタリと重なった肌同士はサラサラすべすべしていて心地が良かった。 私は嬉しくて、楽しくて、きゃはは、と高い声を上げて笑いながら押し倒される。 そんな私のことを見て、中村さんも面白そうに目を細めて口角を上げていた。 こっそりと誰にも秘密ですごい悪戯を仕掛けているような気分。 ブラを外されて、何も纏う物がなくなった背中が、二人分の重みで敷布団を少しばかり凹ませていくのがわかった。 私のことを組み敷きながら中村さんは耳元で、のんびりとした声で「うたこはちいさいなあ」なんて言う。 「ハイヒール履いてないと、こんなに小さかったんだなあ」って、納得をしているのか、それとも、何にも考えていないのか、どちらとも取れるような独り言を私に聞かせる。 大きな手のひらが私の体をまさぐりながら、辿り着いた太ももの付け根を撫で擦ると、それだけで甘い声が喉の奥で鳴った。 私は、はあ、っと濡れた息を何度か零すと、彼は今どんな表情をしているのだろう、と伏せていた瞼を開く。 中村さんは、私への緩やかな愛撫を続けながら、乱れはじめている私を他所に、今まで見たことのない、穏やかな顔をしていた。 「ん、中村さん、は、背え、高いです」 「俺、背だけは伸びたんだよな、ずっと、煙草吸ってたのに」 「私は、中学生の頃から吸ってたら、今もう、妹より小さいの」 「小さくて、細くて、どうしような」 「…あ、…何が、です、か、」 「俺、大丈夫かなあ」 「え?…、」 「おまえのこと、可愛くて、どうしような」 唇を食べられて、私も一生懸命同じようにして応えて、その最中ずっと、どうやったら彼が満足してくれるのか、どういうのが好みなのかをぼんやりとした頭で考えていた。 そうしたら、「うたこ、目え閉じないのな」と笑われたので、慌てて閉じてみる。 もう、何にもわかんないから、全部いいや、と思って彼に身を委ねることにする。 片方の手が、私のショーツを引き下げたので、私も中村さんの首に回していた腕を解いて、彼の履いているスウェットへと手をかける。 もう一度唇を重ねられ、忙しなく手と舌を動かしながら、やっとで細切れに息継ぎをしていた。 そろりと再び下腹部へと滑って行く彼の手のひらが、なんだかやたらと熱く感じてくすぐったくて、思わず身を捩らせる。 逃れようとしてそうしたわけではないのに、中村さんはちょっとだけ困ったような顔をして、自傷行為を重ねて来た、私の傷跡だらけの両手首を一つにまとめて掴む。 それから、その腕を私の頭の上へ持って行って、動けないようにシーツに深く縫い付けた。
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