ーー思い出買い取りサービス ーー

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カランコロンーー 心地よく響いたベルの音は、レンタルショップというよりもお洒落なカフェを連想させた。 店内は思っていたよりも広く、見渡す限りでは一人の利用者も見えない。 毎日この道を通っていた私ですら見逃していたくらいだ。あまり知られていないのだろう。 唯一見えているのは、奥のカウンターに居る女性のスタッフだけだ。なにやら俯きながら作業に熱中しているようで、私が来店したことにも気づいていないらしい。 赤くなってるであろう目元を見られずに済んで好都合だと、さっそく棚に並ぶDVDを一本手に取ってみたところで、すぐに違和感に気がついた。 「あれ......」 普通なら背表紙に記されているはずのタイトルが、そのDVDには無いのだ。 「......え、なにこれ」 良く見ると、棚に並ぶ作品には、全てタイトルが付いていなかった。 表面にもタイトルが無い。裏面を見ると、普通のDVD同様に、ざっくりとしたあらすじと、いつくかの場面が紹介されている。 これは、どういうことだろうか。 「気になる作品がございましたか?」 「きゃ!」 振り返ると、さっきまでカウンターで作業をしていた女性スタッフがいつの間にか傍に立っていた。 「あら、すみません。驚かすつもりじゃなかったんですよ」 ユキハラという名札を右胸に付けた女性は、悪びれる様子もなくそう言った。 「や、えっと。私の方こそすみません。あの、ここにある作品って、タイトルは......?」 大きな声をあげてしまったことが恥ずかしくて、もっともらしい話題に話を逸らそうと早口に言い切ると、ユキハラさんは待ってましたと言わんばかりに瞳を輝かせた。 「これは全て、当店を利用されたお客様の思い出なんですよ」 思い出。そのフレーズで真っ先に浮かんだのは、店前に出ていたノボリだ。 「......思い出レンタル」 「まぁ。ご存知で?」 「お店の前に、そう書いてあったので......。あの、思い出レンタルって何でしょうか?」 「フィクションじゃ満足出来ないお客様がお求めになる、この世で一番、リアルな作品です」 長く艶やかな黒髪を耳にかけると、ユキハラさんは見とれるほど妖艶な笑みを浮かべた。
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