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「名前は、崎本敦也くん。初めて会ったのは高校一年生の時です」
「その人は貴女を振った元彼?それともいじめっ子?」
「まさか。私の大好きな人です」
話した情報を細かくメモにとるユキハラさんの手元を眺めつつ、さっき出していただいたアイスティーを、緊張で乾く喉へと流し込んだ。
「ふぅん。どうして大好きな人を忘れようと?」
「......辛いんです。最近、毎日。卒業したらもう会えないんだって思うと、どうにかなってしまいそうで」
話していて泣きそうになる私に、ユキハラさんは優しい眼差しを向けていた。
「そうよね。楽しいばかりじゃないわよね。
......じゃあ次は、彼を好きになったキッカケを教えてもらえるかしら?」
彼女は私の目を見て言葉を選んでくれている。
ユキハラさんに話しをするのは、不思議と心地が良かった。
「......きっかけは、一年の時。最初の期末テストが終わった頃です」
頭の中で鮮明に並ぶ記憶をなぞるように、
一つ一つの出来事を丁寧に思い返していた。
私は昔から勉強が好きだった。
一学期の期末テスト。たまたま数学で満点を取れたのはいいが、友達もいない私は、誰に褒められるわけでも自慢が出来るわけでもなく、返却された解答用紙をただカバンにしまうだけ。
休み時間、勝った負けたと点数を競い合うクラスメイト達。1位はきっと自分だ。いや誰々だ。当然私の名前なんて出る訳もない。そもそもクラスメイトが私の名前を知っているのかすら怪しいというのに。
本を読みながら、ぼんやりと聞いていた時だった。
誰に返事を求めるでもなく、本当にさらりと。
『愛ちゃんだろ。放課後いつも一人で勉強頑張ってるし』
顔を上げたのは反射的だ。少し離れたところ、男子数名の輪の中で、腕を組み窓際の壁にもたれかかる崎本くんと目が合った。
『ねっ』そんな短い言葉とともにあの人懐こい笑顔を向けられた時からもう、私は転げ落ちるような勢いで、恋に落っこちていた。
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