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喋りきると、恥ずかしさは途端に込み上げてくる。
ユキハラさんはそんな私を見て、楽しそうに声を弾ませた。
「そんなことでって、思いますよね」
「いいえ、全然」
「......私渾名が、今どき地味子なんです。的を得てると言えばそうなんですけどね。どうせ付けるならもう少し捻ってよって思いませんか」
「まぁ、ナンセンスかもね」
「あ、すみません!だからその、大したことない話ですけど。......青天の霹靂といいますか。私には衝撃的で、嬉しくて。名前で呼ばれたことも、私を見ていてくれたことも」
こんなに喋り過ぎる自分自身に違和感を抱かなかったのは、きっとユキハラさんが纏う言い様のなく不思議な雰囲気のせいだろう。
「とっても、素敵な思い出」
壁に掛けられたアンティーク調の鏡に私が映っている。泣いていたことは分からないほど、もうすっかり落ち着いていた。
「来てよかったです。でも、こんなつまらない話。申し訳ないですよ」
「......思い出はナマモノ。この世で一番リアリティのあるもの。貴女が忘れた後も、貴女の素敵な思い出は誰かがきっとレンタルしてくる。そう思うと、少しだけ心が軽くならないかしら?」
「ふふ、そうですね。ありがとうございます」
崎本くんを想う気持が消えることは、この先ずっとないかもしれない。
だけどこうして、心を少しづつ軽くしていけるのならば、苦しいと思う瞬間は一つ一つ無くなっていくのかもしれない。
「さぁ、中林さん。続けましょうか」
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