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朝になって目が覚めても、起き上がることは出来なかった。首も四肢もまるで動かない。
上から滴るしずくは変わらず俺の首を弱く打っている。このしずくのせいで起き上がれないようだと、そう合点をつける。
姿勢を変えることも出来なかった。うつぶせのままの俺の首にぱたり、ぱたりとしずくは落ちてくる。
首の後ろにはくぼみがある。そこをぼんのくぼと呼ぶのだと、無駄な知識を与えられたことがある。
ほんの浅いそのくぼみに、しずくは溜まっているようだった。そこに溜まりきると今度は首筋を流れてあごに伝い、布団へと落ちて染み込んでいった。
ただの透明な水に見えた。
それを目だけで見やり、また視線を枕に戻す。
しばらくすると弟が部屋の前までやって来た。いつまで経っても部屋から出てこない俺に声をかけにきたのだろう。
襖の開く音がして眼球だけを動かすと、靴下を履いた爪先が見えた。
弟はしずくを受けて起き上がれぬ俺をしばらく見ていたようだったが、無言でその場を立ち去った。
そういえばこの自室は一階にあり、真上にはまた別の部屋があることを思い出した。雨漏りではないのだなと思う。
何だかわからぬその水は、俺の首を打っては布団を濡らしてゆく。
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