神成り

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    *  ――そういえば私の体はどうなったのだろう。  弟の日々の祈りを受けながら、切り離された体のことを思い出した。  しずくに打たれていた時幾度か視界が変わることがあったが、あの部屋の中に私の体は見当たらなかった。  私の疑問を感じ取ったわけではないのだろうが、弟はおもむろに席を立つと別の部屋に向かった。そこで何事か声をかけてまた戻って来る。その足音の後に廊下を歩む足音がひとりぶん、増えている。  そうして襖をすらりと開けて入って来た弟の背後には、私の体が立っていた。  チェックのシャツを着た私の体には、梟の頭が乗っていた。深い知性を宿す瞳をしている。  その梟の頭の男が、弟の兄となったようだった。  弟は兄が欲しかったのだ。私以外の兄を欲していた。日々の祈りにより、それは私の体を再利用して叶えられた。  弟は梟頭の「兄」に、私の前に座るよう促した。  二人は静かに手を合わせ、私に祈りを捧げる。  仲の良い兄弟だ。  弟から捧げられる祈りを心地よく感じる。梟頭の兄からはくもりなき尊崇の念が送られてくる。  私は二人の祈りを受け続ける存在であろう。  抱く憎しみの念が強いほど、その思いの力は強くなり捧げられる祈りは大きくなる。  私は弟から捧げられる祈りによって、神としての存在を増していく。  首をしずくに打たせて切り落とすほどの年月。人の個性を宿した顔を潰しきるほどの執念。  あれほど強い念を向けられる存在が、他にあるだろうか? 他の誰が、弟の憎しみを受けられるだろうか?  私を神にまでするほどの情念を、誰が持ち得るだろう。  私だけだ――弟だけだ。  強い祈りを、私はこれからも受け続ける。  激しい怒りを抱かれた私にしか、弟の神になることはできない。弟しか、私を神にできない。  弟の信仰を受けられるのは私だけだ。  梟頭の兄を得られた弟に、生涯に渡る祝福を。  心願成就。  私がすべてをかなえよう。  ――私はお前の神と成ったのだから。
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