23人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
*
――そういえば私の体はどうなったのだろう。
弟の日々の祈りを受けながら、切り離された体のことを思い出した。
しずくに打たれていた時幾度か視界が変わることがあったが、あの部屋の中に私の体は見当たらなかった。
私の疑問を感じ取ったわけではないのだろうが、弟はおもむろに席を立つと別の部屋に向かった。そこで何事か声をかけてまた戻って来る。その足音の後に廊下を歩む足音がひとりぶん、増えている。
そうして襖をすらりと開けて入って来た弟の背後には、私の体が立っていた。
チェックのシャツを着た私の体には、梟の頭が乗っていた。深い知性を宿す瞳をしている。
その梟の頭の男が、弟の兄となったようだった。
弟は兄が欲しかったのだ。私以外の兄を欲していた。日々の祈りにより、それは私の体を再利用して叶えられた。
弟は梟頭の「兄」に、私の前に座るよう促した。
二人は静かに手を合わせ、私に祈りを捧げる。
仲の良い兄弟だ。
弟から捧げられる祈りを心地よく感じる。梟頭の兄からはくもりなき尊崇の念が送られてくる。
私は二人の祈りを受け続ける存在であろう。
抱く憎しみの念が強いほど、その思いの力は強くなり捧げられる祈りは大きくなる。
私は弟から捧げられる祈りによって、神としての存在を増していく。
首をしずくに打たせて切り落とすほどの年月。人の個性を宿した顔を潰しきるほどの執念。
あれほど強い念を向けられる存在が、他にあるだろうか? 他の誰が、弟の憎しみを受けられるだろうか?
私を神にまでするほどの情念を、誰が持ち得るだろう。
私だけだ――弟だけだ。
強い祈りを、私はこれからも受け続ける。
激しい怒りを抱かれた私にしか、弟の神になることはできない。弟しか、私を神にできない。
弟の信仰を受けられるのは私だけだ。
梟頭の兄を得られた弟に、生涯に渡る祝福を。
心願成就。
私がすべてをかなえよう。
――私はお前の神と成ったのだから。
最初のコメントを投稿しよう!